【日本空港ビルデング株式会社】
1953年に設立。主な事業は羽田空港の第1・第2旅客ターミナルビルの建設・管理・運営。
インターナショナルなラグジュアリーブランドを含む免税店の運営も行っており、羽田空港内の「TIAT DUTY FREE」や、銀座三越8階にある市中免税店「Japan Duty Free GINZA」を直営。 羽田空港は、英国の航空リサーチ会社SKYTRAX社から高品質の証である世界最高評価の「5スターエアポート」を10年連続で受賞している。また、97年連続で「世界で最も清潔な空港」に選ばれており、清潔さとサービスの質の高さが国際的に評価されている。
国内外の空港関連事業にも積極的に取り組み、空港施設の管理運営、物品販売、飲食店の運営など多岐にわたる事業を展開。

羽田空港は日本の主要な航空拠点として年間8,000万人以上が利用する、日本最大のターミナル空港。2010年から24時間運用となり、国内の49空港に1日約500便が就航、海外56都市に1日約160便が就航する国内外のハブ空港として世界的にも重要な役割を担っている。



◆羽田空港独自のポイントサービス「HANEDAポイント」

2024年3月、満を持して羽田空港独自のポイントサービス「HANEDAポイント」が始まりました。

弊社は、本サービスの導入に関する伴走コンサルを数か月にわたり担当させていただくことになりました。国内の主要鉄道会社のグループポイントの支援経験から、交通業界において「安全安心」が第一義であることを実感しています。日本最大で最多の旅客者数を誇るの空港でマーケティングを目的としたポイントサービスの導入を決定した理由、コロナ禍を経て実現したサービスの立ち上げ経緯、今後の展望などは、ポイントサービスの導入を検討する企業にとっても大いに参考になる事例と言えると思います。



【HANEDAポイントサービスの概要と特徴】

【サービス概要】
通常の買い物で、税抜100円ごとに1ポイントが付与。

  〇開始時期 : 羽田空港第1・第2ターミナル内の対象店舗での買い物

  〇対象 : 会員の誕生月には、500ポイントが付与。

  〇ポイント付与率 : 購入金額500円(税抜)ごとに10ポイント(2%相当)を付与

  〇ポイント利用 :: 100ポイントごとに100円、500円、1000円の「お買物クーポン券」に交換可能

  〇有効期限 : ポイントは付与月から3年後の月末まで有効。クーポン券は交換から24時間以内に使用


【特徴】

  〇国内空港初の独自ポイントサービス : お買上げ金額に応じたポイントサービスは国内空港初導入(クレジットカードやQRコード決済のポイントサービスを除く)空港独自のポイントサービスとしては国内初の導入

  〇公式アプリ連携: 羽田空港公式アプリ「Haneda Airport」を通じてポイントの管理やクーポン交換が可能

  〇事後申請機能: 購入後でもアプリ内でポイントの事後申請が可能

  〇多様なクーポン券: 100円、500円、1000円のクーポン券と交換でき、利用シーンに応じた柔軟な活用が可能


※羽田空港利用者の購買体験を向上させるとともに、空港内での消費促進を図ることを目的としている。



【HANEDAポイントサービス 導入の背景】

今回は日本空港ビルデング株式会社の大西洋副社長、マーケティング戦略部の中澤勝部長(プロジェクトリーダー)、石出氏、平野氏にお話を伺いました。


HANEDAポイントプロジェクトメンバーのみなさま(左から平野氏、石出氏、大西氏、中澤氏)

―ポイントサービスの導入については、社内上層部の議論や稟議各種承認社内調整のプロセスにご苦労があったのではないでしょうか?

大西氏  ポイントサービスの導入について、実は、これを進めていく上での社内のハードルはなかったんです。

―そうなんですか? どういうことだったのでしょうか?

大西氏  そもそも羽田空港旅客ターミナルの運営において、マーケティング、顧客、顧客像の概念といったものが数年前はなかったんです。ですので、私が着任してからマーケティング戦略部を作ることに2年くらいかかりました。マーケティング戦略部を作る試みをしていた時の話は今でも忘れませんよ。エグゼクティブ会議(経営者会議)で話したら、「POSがあればいいのでは?」とも言われ、「POSは商品情報で顧客情報がないのですよ」という話から始まり、その時の方が大変だった。

と笑って語るのは数年前の話。そのプロセスがあったから、マーケティングが大事である、必要であるという考え方を浸透させる流れの中、顧客を知る上で、ポイントサービスの導入は当然のことと理解されて、導入決定に至ったという。

HANEDAポイント導入プロジェクトのリーダーであるマーケティング戦略部部長中澤氏は、「大西さんがその道筋を作ってくれていたから、社内で進める時の障害はなかった」と振り返る。

日本空港ビルデング株式会社 代表取締役副社長執行役員大西 洋氏。伊勢丹新宿本店の「メンズ館」を成功に導き、三越伊勢丹ホールディングスおよび三越伊勢丹の社長を歴任。「ミスター百貨店」と称される豊富な経験を活かし、現在は羽田空港第1・第2ターミナル港の建設、管理・運営に携わる。

 

中澤氏 もちろん、国内外のお客様を迎える空港としてCS(カスタマーサティスファクション、顧客満足度の略)の思いや取り組みはいろいろやってきました。しかし、顧客情報という概念がなかったんです。年間8,000万人以上が利用している中で、どのようなお客様が何を買っていて何を目的に来ているかということが分かっていなかった。データの蓄積、分析が行われていなかった。商品情報と顧客情報が明確になっていなかった。さらにそれらの紐づけのシステムも確立されていなかった。お客様から見た時の羽田空港に対するご要望を、顧客データから分析して考えていくことができなかったんです。



【HANEDAポイント導入をフックに「お客様を知る」】

どの企業にもポイントサービスを導入する際は、当然ながら大なり小なりの理由があるものだが、日本空港ビルデングの場合、年間8,000万人以上の国内外の人々が行き交う国内唯一無二の空港でポイントサービスを導入した理由、背景について改めて伺った。


日本空港ビルデング株式会社 マーケティング戦略部長を務める中澤 勝氏。元丸井取締役。丸井グループでの、店舗やECなどの豊富なリテール経験を活かし、日本空港ビルデングでマーケティング戦略部長として活躍している。

 

中澤氏  今までのポイントサービス導入というのは購入を促すためのインセンティブという考え方が多かったでしょう。しかし、我々はそれより先に、データの収集が非常にやりたかった。空港は本来はデジタルをもっと活用してオンライン、オフライン両方でサービスを提供していくべきであると思うが、8,000万人が空港の中でいろいろな行動をされる中で、どういう方が来ていらっしゃるのか、何を買っていらっしゃるのか、よくわからなかった。売れたものは分かるが、どのお客様が、というのが分からず、そこを見えるようにしたかった。空港でどういう過ごし方をしている方が、何を購入されているのかを知りたかった。

 

―それが実現できたとして、やりたかったことは何でしょうか

 

中澤氏 もう1つの目的として、お客様を知るための方法としてのお客様の会員化を実現したかったんです。そうするとCRMができてくる。ポイントサービスの導入をフックに、お客様の羽田空港利用での利便性が上がったり、喜んでいただ頂いたりすることが可能となると考えています。

 

空港は普通の商業施設と違って、飛行機に乗るという目的の元、滞在時間が限られる。限られた時間を有効に楽しく活用していただくことを追求する必要があるのだ。

 

中澤氏 例えば、(羽田空港の)利用の頻度が1番高いと思われているビジネスマンが、ラウンジでコーヒーを飲んで飛行機に乗るだけという利用が今まででは多いのですが、ポイントサービスがあることによって、空港の過ごし方や活用の仕方が変わってくるのではないかと思っているんです。



◆ポイントサービス導入直後の臨機応変な改善対応

スタートして半年強、実際、ポイントサービスを導入して見えてきたこと、分かってきたことは何かを伺う。

 

中澤氏 よく買っていただいているお客様には、仮説通り、近隣のお客様もいらっしゃり、今後、施設が増えることにより、飛行機には乗らないけど遊びに来る近隣のお客様の利用も増えることが期待できると実感しました。



◆運用課題に合わせてシステムを柔軟に改善

HANEDAポイントは、羽田空港公式アプリ「Haneda Airport」の追加機能としてポイントサービスを実装して運用している。サービススタートにおいては、付与の後処理を運用に追加導入した。

 

―ポイントサービスを導入後、運用における課題を反映させて、すぐにサービス改善に反映させましたよね。

石出氏 そうなんです。本当は搭乗前や後に羽田空港での時間をもっと楽しんでいただきたい。しかし、今現在は、皆さん時間が限られているので、わかりやすさが重要だと思い、サービス設計しました。事後登録の機能もその一環です。

 

◆ポイントサービスの導入理由

羽田空港としてのトータルなロイヤルティプログラムの中にポイントサービスがあるという、その導入理由を改めて聞いてみた。

中澤氏 CRMが目的です。ポイントがきっかけでアプリをダウンロードして、アプリのマイフライトというメイン機能を飛行機に乗る際に登録してもらえると、何時の便で、どこのターミナルから出発出航しますよという案内だけでなくはもとより、今空いているお店はどこかの案内も見ることができます。羽田空港はターミナルが3つもあり、搭乗口もたくさんあるので、空港の中で迷われることもあるかもしれないが、空港内の体験価値を上げるための情報提供をしたかった。

 

◆ポイントサービス導入に伴走したが、社内で初めて導入するにあたり、どのような点に苦労され、またそれを乗り越えるために何を工夫されたか、改めて尋ねてみた。

 

石出氏 会計面について、会計処理の進め方のグループ間の調整や、システムが重要だと最初からアドバイスをしてもらっていたが、複数社のベンダーとの連携が必要で、そのあたりは非常にやはり大変だった。現場にいる方が、ポイントサービスのお客様へのメリットを一番理解して、お勧めしてもらわなければならないので、事前にマニュアルを作成し、オンラインで複数開催日を設けて、現場のスタッフ全員が事前の説明会に参加できるよう丁寧に開催しました。

【今後の展望について】

目標は2025年末までに100万人の利用登録を目指す羽田空港公式アプリ「Haneda Airport」。未来の発展形について聞いてみた。

 

中澤氏 これからステージ制なども作って、ロイヤルカスタマーづくりをしっかりやっていきたいですね。また、リアルの場だけでなく、リアルで来て貯めたポイントをオンラインでいつでも使えるよう、免税、お土産のECもるのでオンラインにも広げたい。

大西氏  社内のマーケティング戦略部という位置づけだけでなく、マーケティング会社を作れるくらいの顧客データを持ち、アウトプットを外販していく姿を目指したいですね。

 

―国内の一部の空港で導入されているポイントサービスを、羽田空港が主導して全国の空港間で連携させることをぜひ提案したいです。これにより、複数の空港を利用する旅客に対して、より便利で魅力的な特典サービスを提供することが可能となると思います。

 

大西氏  空港つながりは大きいので、まさにそのようなことが実現できたらと思います。空港は唯一インバウンドマーケティングにおいてデータがとれ、他社へも活用できることも強み。羽田到着だけでも、免税店の売上は年間1,000億もあります。

 

―インバウンドのお客様も日本人のお客様と同じように、顧客情報を収集してマーケティングを実現できるとよいですよね。

 

大西氏  現時点で三千数百万人のインバウンドの方にとって、交通手段、観光情報、ショッピングなど、横のつながりや連携があると喜ばれるはず。現在は各社とも実現できていない。ぜひやっていきたいことです。

 

最後、エムズコミュニケイトのポイントサービス導入のプロジェクト支援に対する感想をプロジェクトリーダーであった中澤氏に聞いてみた。

 

中澤氏 ちょうどいろんな構想をしていた時に、ジャストタイミングで大西さんから実はポイントサービスに関して1社だけ専門でコンサルティングをやっている会社があると教えてもらって、藁にもすがる思いで、紹介してもらった。ポイントサービスをゼロから立ち上げたことがなかったので、ポイントを社内で進めていくにあたっては、多岐にわたっていろいろと検討しなければならなくて、そんなタイミングで出会って、いろいろ教えてもらった。どなたかに助けを求めたいと思っていた時に出会ったのがよかったですね。

岡田さんをはじめ、会社の幹部の方々が皆さん出てきてくれて、会計やシステム他、あらゆるサポートをしてくれて、常にこちらの細かい要望にそって丁寧に対応してくれた。

結果、空港の中でポイントをやるともっと時間がかかると思うが、早期に実現できたことは非常によくて、これが少しでも遅れていると、結果の検証もできなかった。ポイントもこれだけの受容性があり、広げていき、汎用性を持たせていくことも考えられるようになった。いろいろ助けていただ頂いたおかげと感謝しています。
ポイントは企業とお客様の関係にとって非常に重要なサービスですが、きちんと全体設計が出来ていないと諸刃の剣になってしまうと思います。

各企業がより良いサービスを提供でき、お客様との良い関係を築くために、エムズさんが必要とされていると思いました



【まとめ】

羽田空港のポイントサービス導入事例は、単なる購買インセンティブを超えた戦略的なマーケティング施策として注目に値すると考えます。特に以下の3点が、今後ポイントサービスを検討する企業にとって重要な示唆となるでしょう。

第一に、顧客理解を最優先の目的としたアプローチです。商品売上の向上だけでなく、将来構想として8,000万人の行動データを収集・分析することで、より質の高い顧客体験の提供を目指しています。

第二に、トップマネジメントの明確なビジョンと組織づくりです。マーケティング戦略部の設立から段階的に進めることで、全社的な理解と協力体制を構築できました。

そして第三に、空港という特殊な商業環境において、限られた滞在時間をいかに価値あるものにするかという視点です。デジタルとリアルを融合させた新しい顧客体験の創造に挑戦しています。

今後、HANEDAポイントが目指す100万人の会員獲得、EC展開、さらには空港間連携など、その進化からは目が離せません。日本の空の玄関口から始まったこの取組みが、ポイントサービスの新たな可能性を切り開くことを期待したいと思います。