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世界の電力自由化ビジネスモデル10種、料金メニュー・セット販売…、ブランド確立シェア争い(日経BP専門誌から)

2016.03.01

Clean Tech Institute
英Ecotricity 再生エネ100% 
独の地域エネ 官民事業で信頼
 日本では2016年4月1日に電力小売りが全面自由化され、既存の電力会社やガス会社、石油、情報系企業を巻き込んで激しい小売りビジネス競争が繰り広げられる。そこでは、需要家に単に電力を供給するだけでなく、どのような付加価値を付けてサービスを提供するかというビジネスモデルが重要になる。
 欧米やオーストラリア、ニュージーランドでは、すでに1990年代から家庭など「低圧部門」を含めた自由化がスタートしている。そこでは多くの小売事業者がビジネスモデルに試行錯誤を重ね、シェア競争を繰り広げてきた。
金融商品の手法
 日経BPクリーンテック研究所が世界の主要電力小売事業者40社の販売戦略を調査、分析した『世界電力小売りビジネス総覧』によると、世界の小売事業者のビジネスモデルは10種類に分類される。これらは互いに関連し合い、包含関係にあるが、いずれのビジネスモデルについても小売事業者が顧客獲得のための戦略を考えるうえで重要なテーマといえる。
 小売事業者がまず考えなければならないのは、顧客が最初に目にするブランドの確立であり、そこにアクセスする販売チャネルである。顧客ニーズは多様化しており、単一のブランドだけでは対応が難しくなってきた。近年スマートフォン(スマホ)などの普及でこれまでのコールセンターなどの対人的なチャネルだけでなくウェブやインターネットを活用した販売チャネルの重要性も増してきている。
 ブランドを構築する上で最も重要なのが料金メニューであり、さらにその要素として、セット販売や電源の差異化手法である地域産エネルギー供給や再生可能エネルギー供給に注力する企業もある。さらに付加価値を上げていく試みとして、金融商品の手法を適用する試みが始まった。例えば、前払い料金を運用に回して、数%の利息を消費者に還元する試みが英国などでは始まっている。
 スマートメーターや顧客インターフェースのビッグデータを生かしたサービスが始まろうとしているのも近年の特徴である。これらのビッグデータを分析して、エネルギー消費量などの「見える化」を高度化したり、料金メニューを工夫することで顧客満足度を上げる。顧客向けサービスの充実とともに、電力需要のデータから需要予測を高精度化することによって、高額なインバランスコストを回避でき、事業効率の改善や利益率の最大化を狙う意味も大きい。
 これまで実証段階だったスマートグリッドの手法を小売り戦略に取り込む動きとして、デマンドレスポンス戦略や蓄電池・マイクログリッド戦略に挑戦する企業も登場してきた。究極的には生活支援などの各種サービスと融合してコネクテッドホームやスマートホームを目指すビジネスモデルが模索されている。
 ビジネスモデルを分析するために、日経BPクリーンテック研究所は世界でユニークな小売事業を展開している企業40社を選択し、現地取材を含め調査した。欧州では新規事業者、米国では大手企業が多いという結果となった。
 理由は欧州では特に電力自由化の歴史が長い英国で、ユニークな戦略により大手企業の牙城に挑もうとするベンチャー企業が多いためだ。
大手より安く
 典型は英国のOVO Energyで、同社は金融業界出身の社長が電力小売業界に進出し、電力の前払いによる資金を金融商品化した。どの「ビッグ6」(英国の大手電力会社)に対しても常により安い料金の提供を約束することで伸びたGood Energyや、ビッグ6が料金メニュー規制で打ち出しにくい「再生可能エネルギー100%」をアピールするEcotricityのように、さまざまな工夫を加えてビッグ6に対抗しようとしている。
 ドイツでは新規参入企業の多くは倒産したが、「シュタットベルケ」と呼ばれる地域エネルギー企業が1400社も存続し、電力を含めたインフラビジネスで一定のシェアを確保している点が注目される。共通するのは自治体が出資額の過半数以上を押さえ公共性を持たせている点である。一方で、民間企業の資本も受け入れており、民間企業のノウハウを取り入れているのも特徴だ。公共交通事業でも重要な存在であり、市民の信頼を高める一因になっている。
 米国では大手電力会社を中心に、デマンドレスポンスやスマートホームにつながる新しい試みをスタートさせている。
 オーストラリア、ニュージーランドでは、大手電力会社が発送電分離後に発電と小売りを再統合する動きがあり、大手のシェアは高い。ただし、電力卸市場にプール制を採用していることから取引が活発で、卸市場を活用して小売事業に参入する新規事業者が相次いでいる。
 日本では16年4月の全面自由化に向けて、大手電力系とガス系企業が電気とガスをセット販売する「デュアルフューエル戦略」を巡って他社との提携を活発化させるなどさまざまな動きが出てきており、販促競争が激しくなる。通信事業者や大手石油会社、e―コマース(電子商取引)会社なども参入し、地域に根差した地産地消モデルの検討もスタートする。(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)
 
 
 日経産業新聞,2016/02/24,ページ:2