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深層断面/生き残りへ変わる百貨店-閉店・業績不振が相次ぐ

2016.10.03

 ■消費低迷、ECとの競争激化
 百貨店の業績不振が鮮明になっている。そごう・西武(東京都千代田区)は2016年に計3店舗を閉店し、17年2月末にも西武筑波店(茨城県つくば市)など2店舗を閉める。三越伊勢丹ホールディングス(HD)も三越千葉店(千葉市中央区)と同多摩センター店(東京都多摩市)の閉鎖を決めた。国内消費の低迷が続き、訪日外国人による“爆買い”にも頼れなくなっている。電子商取引(EC)などの他業態や店舗間の競争も激化している中、百貨店は限界なのだろうか。(江上佑美子)  
 【危機感あらわに】
 「店舗拡大当時の経済基盤が崩れ、競争環境も変わっている。地方店や郊外店では、収入のパイの確保や運営コストの適正化などの構造改革が急務」。日本百貨店協会の近内哲也専務理事は百貨店の相次ぐ閉店決定に、危機感をあらわにする。
 百貨店の売上高はピークだった1991年と比べ、約6割に落ちている。14年ごろからの“爆買い”バブルも中国の関税強化や景気減速、円高ではじけ、8月の免税売上高は前年同月比26・6%減だった。
 三越伊勢丹HDは三越千葉店と同多摩センター店を、17年3月20日に閉店する。三越千葉店の15年度の売上高はピークの91年度と比べ4分の1に落ち込んだ。千葉駅に近いそごう千葉店との競争でも苦戦を強いられ、大幅な赤字が続いている。17年夏以降に千葉駅の駅ビルがリニューアルオープンし、さらに業績が圧迫されると判断して閉店を決めた。
 三越多摩センター店の閉店理由は千葉店とは異なる。売上高はピークの07年度と比べても、大きく減ったわけではない。損益についても「微妙だが社内の見解は赤字」(杉江俊彦取締役専務執行役員)という程度の認識だ。
 杉江取締役は「交通事情が良くなり、伊勢丹新宿店や伊勢丹立川店に行くお客さまが増えたことから、品ぞろえが日用品に変わった。むりやり店舗を存続するより、(三越の)イメージが大事」と閉店理由を語る。同店はショッピングセンター(SC)内にあり、2階は良品計画が運営する雑貨店「無印良品」やカジュアル衣料品ブランド「ライトオン」が中核テナントとなっているなど「お客さまから見て百貨店とはいえない状態」(同)だ。
 【薄れる高級感】
 ブランドイメージの維持か収入の確保か―。近年、百貨店では安定収入が見込めるテナントの誘致を目指す動きが顕在化している。大丸松坂屋百貨店は15年秋、松坂屋名古屋店(名古屋市中区)にヨドバシカメラを誘致した。ニトリは9月の高島屋港南台店(横浜市港南区)と東急百貨店東横店(東京都渋谷区)に続き、12月にタカシマヤタイムズスクエア(同渋谷区)、17年春に東武百貨店池袋本店(同豊島区)への出店を予定している。
 ただ家電や価格訴求型家具の量販店は百貨店との相乗効果は見込みにくい。プランタン銀座(同中央区)内に15年4月に開業したニトリの店舗は計画比2倍を売り上げているが、プランタン銀座自体の15年度の売上高は150億円で、前期より減少した。
 共通ポイントとの連携も進んでいる。高島屋は4月にNTTドコモのdポイント、三越伊勢丹HDは5月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(同渋谷区)のTポイントを導入。大丸松坂屋百貨店でも楽天ポイント、そごう・西武では親会社のセブン&アイ・ホールディングス(HD)が展開する電子マネーのナナコが使える。消費者の利便性向上にはつながるが、百貨店が強みとしていた高級感は薄れる一方だ。
 【国内の顧客離れ】
 “爆買い”を当て込み、免税や通訳サービスを拡充するなど訪日客の誘致を強化したことも国内顧客離れにつながった。日本百貨店協会の近内専務理事は「売り上げの急回復は難しい」と苦境を語る。特に課題となっているのが、アパレルの不振だ。同協会がまとめた衣料品の売上高は10カ月連続で前年割れとなっている。  
 ■地域別に“異なる”店舗
 【経営資源を集中】
 百貨店大手は不採算店を切る一方、大都市の旗艦店に経営資源を集中している。三越伊勢丹HDは約200億円を投じ、三越日本橋本店(東京都中央区)を20年春までに改装する。食や遊びなどの「文化」を重視する店舗と位置付け、環境デザインの設計を建築家の隈研吾氏に依頼した。中陽次本店長は「百貨店はファッションデパートの金太郎あめになっている」と指摘し、「同じ悩みを持つ百貨店の代表として、この店を成功させたい」と意気込む。衣料品の取り扱いは縮小する方針だ。
 三越伊勢丹HDや高島屋は郊外で、“百貨”を扱わず食品や化粧品に特化した小型店を出している。旗艦店を磨き上げるとともに、消費者が訪れやすい生活支援型店舗を増やし、生き残りを図る。
 【得意技に頼らない】
 “ハコ”以上に重要なのが取り扱う商品だ。そごう・西武はバイヤー制を廃止し、新しい視点や独自性、ストーリー性がある商品の公募を5月に始めた。9月にはクラウドファンディング方式で商品を受注生産する取り組みも始めた。リスクを抑えつつ消費者のニーズに応えられるとしている。百貨店が得意としてきた“目利き”に頼らずに、同質化を防ごうとの狙いが見える。
 同社は15年秋以降、店舗閉鎖や地方店舗のSC化、希望退職募集などを進めてきた。しかし収益性の悪化が続いているとして、9月30日に17年2月期の業績予想を下方修正し、店舗関連の固定資産、のれんの減損損失も計上した。
 日本百貨店協会の会長を務める大西洋三越伊勢丹HD社長は、百貨店復活のカギに、ニトリのCMフレーズ「お、ねだん以上。」を挙げる。百貨店ならではの価値をいかに提案できるかに、勝負がかかっている。
 
 日刊工業新聞,2016/10/03,ページ:34