道内新電力、戦略で明暗、自由化3カ月、北電から流出続く、エゾデン、CMで訴え届かず、北ガス、戸別訪問を武器に。
2016.07.04
家庭用を含む電力小売事業の全面自由化から3カ月。道内で新規参入した電力事業者間で差が生まれ始めている。序盤は直接家庭に販売するルートを持つ企業が強みを発揮。テレビCMを営業の中心に据えた企業などは戦略見直しに動き出した。北海道電力からの顧客流出は続いており、新たな市場を巡り、競争は激しさを増している。
「冬場は電気代が月に8万円。何とかしたかった」。札幌市豊平区の主婦、中島麻理さんは暖房や融雪の熱源に電気を使う「オール電化」の一戸建てに住む。電力自由化を知りコスト削減に動いた。複数の新規電力に問い合わせ、熱源を都市ガスに転換。電力購入先に北海道ガスを選んだ。
中島さんの需要を獲得した北ガスの強みは家庭を回る営業員の存在だ。オール電化の中島さん宅にも担当者が数年前からチラシを入れ続け、転換を呼びかけていた。北ガスは道内新電力で最も多い2万5603件の電力申し込みを獲得。大型店や地下歩行空間などでのイベントも組み合わせ、上積みを進める。
続くのはコープさっぽろ。供給開始は6月だが約1万8000件の申し込みを得た。こちらも宅配サービスの担当者が商品を運ぶ際に電力を紹介し、契約を集めている。割引率が高い灯油利用者が申し込みの半分を占める。灯油需要期の前に、配達担当者が電力サービスの利用を訴え、申し込みの積み増しを狙う。
約6500件の申し込みを受けたプロパンガス販売のいちたかガスワン(札幌市)は「直接説明がないと電気の契約は取れない」(石川浩エネルギー事業部長)という。
北電1社の独占が続いた道内の電力サービス。家庭が電力会社を選ぶのは初めてだ。エネルギーの使い方は家庭ごとに異なり、どれを選べば最もメリットがあるのか、比較は難しい。家庭への説明機会を持つ企業が上位に並ぶ背景には、慎重に選択しようとする消費者の姿勢がありそうだ。
サッポロドラッグストアー系企業などが出資するエゾデン(札幌市)は自由化直前に大量のテレビCMを流したが、戦略を見直す。CMで消費者をホームページに誘導する狙いだったが思うほどアクセスを得られず、5月の大型連休前後に予定したCMも取りやめた。
今後はサツドラ店内にコーナーを設け、来店する主婦層に訴える方向へシフトする。「自由化に興味のない人も情報に触れて、意識してほしい」(渡部真也取締役)。ジェイコム札幌(札幌市)もCMによる認知向上から、営業担当者のシミュレーションなどによる対面営業に力点を移す。
北電からは週3000件ほどのペースで顧客の流出が続く。17日までに5万5800件が流出。販売電力量が3倍近い九州電力や東北電力を上回る。東日本大震災以降2度の値上げで料金が割高になっている影響が大きいとみられる。
北電は4月に電気を多く使う家庭を対象に割安プランを設けたが、契約件数は約380件と流出防止の効果は限定的。インターネット上のポイントサービスなど流出阻止策を打ち出すが「苦しい戦いを強いられている」(真弓明彦社長)。
抜本的な競争力強化には停止中の泊原子力発電所(泊村)の再稼働が必要とし「(流出顧客に)再稼働後に北電に戻っていただくよう、営業活動を進めたい」という。本格的な競争は原発再稼働後、料金を値下げしてからとの位置づけだ。
(宇野沢晋一郎)
日本経済新聞 地方経済面 北海道,2016/06/30,ページ:1