魅力ある電力市場を息長く育てよう(社説)
2016.05.30
電力小売りが4月に全面自由化されてほぼ2カ月がたった。一般家庭や小規模店舗は電気の購入先を自由に選べるようになり、電気とガスのセット販売など、これまでにない売り方が話題を集める。
だが小売りに参入した新規事業者への切り替えが期待ほど進まなかったり、地域によって切り替えた家庭の数にばらつきがあったりするなどの課題も見えてきた。
電力自由化に期待されるのは、多様な事業者による競争を通じて電気料金を抑え、サービスの質を高めることだ。自由化市場を息長く育てるため、その魅力を高める努力を続けていかねばならない。
20日時点で全国の約95万の家庭や店舗が既存の電力会社から新規事業者に契約先を変えた。対象となる全契約数の1・5%にとどまる。このうち首都圏と関西圏の消費者が8割超を占める。北海道では4万超の家庭や店舗が新規事業者へ変えたが、北陸や中国地方はそれぞれ約2千件にすぎない。
一方、4月末時点で約135万の家庭や店舗が従来の電力会社からの購入は変えないものの、自由化にあわせて導入した時間帯別などの新メニューに変えた。中国電力の供給区域では7万超の家庭が中国電との新契約に切り替えた。
政府は電力自由化の目的に消費者の選択肢の拡大を掲げる。新規事業者への切り替え数の伸び率は週を追うごとに鈍りつつある。このままでは失速しかねない。切り替えを阻んでいる理由があるなら、手を打つ必要がある。
電気は日々の生活を支えるインフラだ。消費者にすれば電力会社を変える不安も小さくないだろう。政府は電力会社を変えても停電の起こりやすさに差はないことなど、自由化への理解を促す活動を粘り強く続けることが大切だ。
新規事業者が既存の電力会社と料金やサービスを差別化できていないことも、多くの消費者が様子見を続けている理由ではないか。
売り方やサービスに新規事業者がもっと知恵を絞ることが求められる。そのうえで販売用の電力を調達する卸電力市場を使いやすくするなど、政府が競争を促す環境を整えることが急務である。
イノベーションを促すきっかけにもしていきたい。IT(情報技術)を使い電力需給の逼迫時に家庭や企業に節電を促し、その分の料金を割り引いたり、節電する能力を売買したりする仕組みの普及を後押しすることも必要だろう。
日本経済新聞 朝刊,2016/05/30,ページ:2