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第6部動き出した自由化(上)新電力、北の大地熱く――北海道電流出、夏に1割、企業、相次ぎ切り替え(電力ビッグバン)

2016.05.30

北ガス2万件、東電も進出
 4月1日の電力小売り全面自由化から50日余り。約8兆円とされる家庭用電力市場を巡る顧客争奪戦が熱を帯びている。大都市圏を中心に新電力が勢力を伸ばすが、意外な激戦地が北海道だ。北海道電力は料金水準が高く、新電力の攻勢も激しい。一方、中国や北陸など盛り上がりに欠ける地域もあり、序盤の戦局はまだら模様だ。(関連記事3面に)
 「これまで見積もりすら出してくれなかったのに」――。北海道コカ・コーラボトリングで電力調達を担う佐藤一輝技術部長は、昨年末からの急展開に驚きを隠さない。
 同社は道内に工場や営業所、倉庫など31拠点を持つ。そのうち工場以外の30拠点の電力調達先を北海道電力から北海道ガスなどに変更中だ。
2度値上げ響く
 4月の自由化対象は家庭など小口向け。業務用の大口利用者は2000年以降に段階的に自由化されている。佐藤氏は10年前から新電力に変更を打診してきたが、つれない返事ばかりだった。
 だが、昨年末に突如、「北海道電より3%近く安くなりますよ」などと新電力から提案が届き始めた。新電力は道内で、自治体などが保有する発電設備に目を付け、電源確保を本格化。電源が手に入ったことで小口と大口の両面で積極営業が可能になった。企業側も全面自由化を機にコスト意識が向上。「家庭向けに引っ張られて、従来の自由化市場も活性化されている」(佐藤氏)
 北海道電から新電力への離脱件数は13日までに3万9500件。契約口数(276万1900件)の1・43%が1カ月半で流出したことになる。件数では4位だが、離脱率では10電力で3位だ。
 最大のライバルは北海道ガス。販売店網を生かして対面営業を仕掛け、契約件数は2万件を突破、流出分の半分以上を獲得した計算だ。割安な料金設定も奏功した。
 地元の流通大手、コープさっぽろ(札幌市)も6月から参入するが、こちらも全道の宅配網が強み。すでに申込件数は1万件を超えている。
 北海道電にとって厳しい状況なのは業務用の流出も相次いでいることだ。北海道電は今夏のピーク時には、業務用と家庭用を合わせた流出分が計42万キロワットと、全道の電力需要の約1割に達すると見込む。昨夏の計10万キロワットの4・2倍の水準だ。
 背景には、東日本大震災後、2度にわたり実施した料金値上げがある。
 家庭向け料金は5月の標準料金モデルで比べると関西電力と並び高水準。1家庭当たりの電力利用量は関電の方が大きい設定のため、実際には北海道電が高額だ。くすぶる料金への不満が、顧客流出の形で噴出したといえる。
 業界のガリバー、東京電力ホールディングス(HD)の影もちらつく。
 昨秋以降、「イトーヨーカドー」「イオン」など、名だたる流通大手が次々と電力契約先を東電HDグループの新電力、テプコカスタマーサービス(東京・江東)に変更した。テプコ社は安定供給のため、道内で自家発電の余剰を持つ企業と契約し、独自に電源を確保したこともわかった。
 北海道は送電線の制約があり、本州からの安定した電力供給が難しい。これまでは「北海道電以外に供給してくれる電力会社がなかった」(大手電機メーカー)が、全面自由化で状況が変わり始めた。
原発再稼働カギ
 もっとも、これだけのインパクトを前にしても、北海道電は値下げを検討する様子を見せない。道内唯一の原子力発電所である泊原発が再稼働すれば形勢が逆転できるとの読みがあるからだ。
 北海道電の真弓明彦社長は「原発を再稼働し、料金を下げた上で(流出した)お客様に契約切り替えをお願いするというのが、我々としての最終的な武器」と述べる。
 ただ、北海道電のシナリオ通りに進むかどうかは再稼働の行方も含めて未知数だ。北の熱戦は、コープさっぽろが参入する6月から夏場に向け、次のヤマ場を迎える。
沖縄はゼロ
中国も低く
 沖縄電力は離脱率がゼロだ。本土からの送電線がなく、電源の面から新電力が成立しにくい。
 次いで離脱率が低いのは中国電力。こちらは消費者の選択肢が少ないことが理由に挙げられる。
 「電力自由化はご存じですよね。新メニューに切り替えませんか」
 広島市の繁華街にある家電量販店「エディオン広島本店」。店員が店頭で勧めるのは、新電力ではなく、中国電の新料金メニューだ。
 中国電とエディオンは電力小売りで提携。店頭では店員が来客に「新メニューとセットでオール電化を検討しませんか」などと呼びかけている。同店の販売担当は「新電力よりも、中国電の新メニューが知りたいという消費者が多い」と話す。
 エディオンは広島発祥の旧デオデオ系で地元で存在感が大きい。中国電は地域一番店との提携戦略で先手を打ってきた。
 プロ野球の広島東洋カープと組み、公式戦の成績に応じてポイントがたまるメニューも導入。中四国最大の総合スーパー(GMS)を展開するイズミともポイント連携などで提携している。
 一番の対抗勢力となるはずの広島ガスはいまだに電力小売り参入を正式表明していない。事業規模の違いもあり、「2017年のガス小売り全面自由化での返り討ちを恐れ、弓をひきたくないのでは」(業界関係者)。
 中国に次いで少ないのは北陸電力。北陸エリアは水力発電比率が25%を占め、電気料金が安い。5月の家庭向け標準モデルでは、関電が7758円なのに対し、北陸電は6993円と10電力で最安。割安な料金が新電力の障壁となっている。
 北陸電の金井豊社長は「離脱が増えないよう対策をとる」とし、ソフトバンクと提携協議に入った。電気と通信とのセット割引などを検討中だ。
 中国や北陸では現状、大手電力につけいる隙が少なく、新電力「不毛の地」となりかねない。
 
 
 日経産業新聞,2016/05/24,ページ:1