保育や医療、幅広く、イオン、100自治体と連携へ、買い物以外で成長模索。
2016.04.25
イオンがまちづくりへの関与を強めている。自治体と組んで防災のほか、高齢者支援や保育、医療など幅広い生活ニーズに対応する実験を進める。物販を軸にした従来型の小売業の成長には限界も見える。「もはや小売業とサービス業の垣根はない」と岡田元也社長。住民の生活を丸ごと抱え込む「総合生活産業」への脱皮を目指す。
「いろんな方に参画をお願いし、地域の便利さ快適さを追求していく」(岡田社長)。11日に千葉市と共同で開いた記者会見。千葉市や日本郵政や日本航空、三越伊勢丹ホールディングスといった企業と協議会を発足し、デジタル技術を活用した次世代型のまちづくりについて検討を進めると明らかにした。
具体的な内容は今後詰めるが、電子商取引(EC)の整備や公共交通機関の効率アップに取り組む。住民の医療・健康管理に関する情報連携なども進めるようだ。大学や医療機関、金融機関、市民団体などにも参加を呼びかける。
埼玉県の浦和美園地区などでも、自治体や他企業とまちづくりに関する協議を進めている。
青森県ではショッピングセンター(SC)内の指定コースを歩いて回った客にイオンで使えるポイントを付与し始めた。青森は日本有数の「短命県」で、県は高齢者の冬季の運動不足を解消する狙いだ。イオンは同様の取り組みを16年度中に10カ所以上に広げる。
東京・板橋の大型スーパー内には、板橋区が設置を進める「赤ちゃんの駅」を設けた。盛岡市では地元商工会と共同で、地域活性化の専門会社を設立した。地域のポイントサービスと情報サイトの連携を進める。
県や市区町村と結ぶ地域貢献協定の数は2011年2月末には13だったが、16年3月までに87と6倍以上に増えた。年10カ所強の自治体と協定を結んでおり、協定数は16年度にも100カ所に達する見込みだ。東日本大震災直後は防災関連の協定が多かったが、最近は「子育て支援」や「高齢者・障がい者支援」、「ICカード等の活用」など多岐にわたる。
背景には高齢化や都市部への人口集中、共働き世帯の増加といった社会構造の変化がある。
保育や介護などの公共サービスは地域ごとに担い手が必要だが、労働人口の減少と雇用のミスマッチで人手は不足している。財政難もあり、地方自治体が店舗や労働力をもつ小売業に期待する構図だ。
イオン側の思惑もある。同社は「キツネやタヌキの出るところ」に大型SCを展開してきた。交通弱者が増えるなか、移動しやすい環境づくりは欠かせないが、イオン単独では実現が難しい。
千葉市の熊谷俊人市長は「人の集まるところに(行政)機能を組み込めばいい」と話す。イオンはグループ内に保育や介護、冠婚葬祭など幅広い事業をもつ。これらをSC内に組み込めば、地域に不可欠な施設になり得るとの目算がある。
ただ、自治体との連携がどれほど収益を生むかは未知数だ。参加企業との利益や負担の調整は難しい課題だ。公共性が高まれば、不採算でも撤退しにくくなる。
いち民間企業であるイオンが、採算を度外視して地域に責任を負う必要はない。主力の総合スーパー事業が苦戦する中でどう公共性と収益性のバランスをとるか、難しいかじ取りと企業哲学が問われる。
日経MJ(流通新聞),2016/04/20,ページ:4