大変動、消費税10%前夜――大選別に備えろ、企業トップ・専門家はこう読む、「規模より利益追う」。
2016.01.12
2017年に消費税率が10%にアップする。増税前夜となる16年は電力自由化も控える。消費者は改めて家計と向き合い、企業は生き残りへの準備を急ぐ。何が起きるのか。消費関連の有力22社アンケートや専門家の見方などから、予測してみた。
【予測(1)】
選別より厳しく
欲しいモノが少ない時代の消費税10%。駆け込み・反動の心配より、選別が厳しくなるとの見方が多い。家事・節約アドバイザーの矢野きくの氏は「8%のときよりも上げ幅は小さいが心理的負担は大きい。漠然と節約しようという人は増える」とみる。
また矢野氏は「本当に必要かどうか吟味して購入する人が増えるのでは」と指摘する。カカクコムも「ネットでいつでも買える時代。14年も分散しており、駆け込み需要は大きくならない」と見る。
矢野氏が食費以外の分野で見直し対象にあげるのが電気代と通信費だ。16年から電力小売りは全面自由化され、格安スマホのサービスも拡充されていく。幅広い分野で消費者の取捨選択が進みそうだ。
【予測(2)】
店舗縮小が加速
節約アドバイザーの武田真由美氏は消費の場がリアルからネットへさらにシフトすると予測する。事前にネットの口コミで情報を集め、小売店で実物に触れて納得したら、価格比較サイトで最も安い通販サイトを見つけて購入するケースは今でも若い人に多くみられるという。「増税後は小売店をカタログ代わりにしか使わない人がさらに増えるかもしれない」。
そうなると小売りの淘汰は避けられない。ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは16年以降は「閉店など、過大だった供給力の適正化が進む」と分析。「利益を伴わない規模の追求からは距離を置く姿勢が目立ってきた」ためだ。
15年に約60店を閉鎖したヤマダ電機の山田昇社長は「自社の店舗同士が競合するようになり、チェーン店としての規模拡大の限界点を感じた」と話す。同時に「家電量販業界では商品開発や共同仕入れで連携する動きが出るだろう」と消費税10%のインパクトをこうみる。
外食でも日本マクドナルドやワタミが年100店規模での閉店を進めた。「今後の業界再編では売上高は減らしても利益を増やそうとするケースが増える」(風早氏)とする。
【予測(3)】
ロボットを駆使
小売りや外食、サービス業は増税と人手不足を乗り切るためにどう動くか。答えの1つはIT(情報技術)やロボットを駆使した新たな経営モデルの構築だ。
閉店後の夜10時すぎ。人けのなくなった暗い大型スーパーの売り場を、成人男性ほどの高さがある筒型の自走ロボットが静かに巡回していく。見た目には、何をしているのか全く分からない。ロボットは夜間の数時間で売り場をくまなく回り、所定の位置に戻る。
これは、昨年12月にイオンが国内で初めて導入した商品情報の自動管理ロボットだ。旗艦店の「幕張新都心」(千葉市)で試験運用を開始。同社は近距離無線通信ができるICタグを使った業務効率化に乗り出す方針で、自走ロボットはその活用例の1つだ。
実験のため、同店では11万点に及ぶ2階衣料品売り場の商品全てに、ICタグをつけた。タグには商品の種類やサイズ、価格などの情報が書き込まれており、専用の読み取り機を使うと通信範囲にある商品の情報を一斉に把握できる。バーコードのように商品のタグ一つ一つに読み取り機をかざす必要がなく、作業効率が飛躍的に高まる。
ファミリーレストラン最大手のすかいらーくは、調理過程の見直しの検討を進める。同社は全国に約10カ所のMDセンターと呼ぶセントラルキッチン(集中調理施設)を持つ。だがセンターが立地する工業団地は地域全体で数万人規模で雇用を吸い上げ、人材不足が深刻化しているという。
このため繁忙時間帯以外に店舗の従業員に仕込みなどに当たってもらうなどして、セントラルキッチンと店舗の分業体制を整える。
ヤマダ電機も構造改革に動く。年間の需要予測や直営650店の競争環境、販売員一人ひとりのスキルなど、様々な変数を入力するだけで、季節や時間帯による繁閑の差に対応して最適な勤務シフトを作成するシステムを稼働させた。増税に伴う選別の危機は企業に進化を迫ることになる。
日経MJ(流通新聞),2016/01/04,ページ:5