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第5部開幕前夜(中)焦る関電、関西で守り――首都圏進出急がず、客流出グループで防ぐ(電力ビッグバン)

2016.03.07

再稼働で「値下げ」強調
 「首都圏進出より関西圏の電力需給の改善を優先する」。2月中旬、大阪・中之島にある関西電力本社で八木誠社長は明言した。首都圏を開拓する時期については「これから」と語るだけで、電力小売りの全面自由化が始まる4月にはこだわらない。
 家庭への電力小売市場は今まで、地域の電力会社が独占してきた。電力小売りの全面自由化をきっかけに誰でもどこでも家庭に電気を売れるようになる。特に人口が集中する首都圏は市場規模が大きく、大きなビジネスチャンスになり得る。
 質やサービスで差異化しにくい電力の市場開放だけに「先行者利益」をいかに取れるかどうかが成否を分ける。
 関電も東燃ゼネラル石油と共同で千葉県に出力100万キロワット級の石炭火力発電所を建てる方針だ。丸紅とは秋田県に計130万キロワットの石炭火力を建て、総投資額は6000億円を超える見通しだ。いずれも2020年代の完成を見込み、環境影響評価の準備に入った。安く安定して電気を調達するには自前の電源が欠かせないからだ。
 それでも都市ガスや石油元売りなどの異業種のほか、中部電力や四国電力、九州電力も首都圏参入を表明したのに比べると関電の出遅れ感は明らかだ。国内最大の市場である首都圏進出をあえて遅らせる戦略の真意は何か。
最も高い料金
 「首都圏進出が攻めなら、地元の契約維持が守り。今は守りに徹する時期だ」。関電の営業担当幹部は明かす。東日本大震災後、原子力発電所を動かせず代替の火力発電所の燃料費が膨らんだ関電は13年春と15年春に電気料金を引き上げた。
 3月の一般家庭の電気料金は7812円と全国で最も高い。首都圏に出る販管費があるならその分を値下げ原資に充てるべきだ、との批判は根強い。
 近畿経済産業局によると、企業や自治体など大口需要家への電力販売量のうち、新電力の占める割合は昨年12月時点で11・3%と過去最高だった。高値を嫌う企業が新電力にどっと流れ続けている。4月以降、家庭でも同じことが起きかねない。「大変な危機だ」。八木社長は周囲に漏らす。
 経済産業省の認可法人の電力広域的運営推進機関によると、現行料金から新料金へ切り替える件数が1月下旬時点で約5万5千件に上った。このうち首都圏で6割、関西圏でほぼ4割を占めた。首都圏の割合は競合の激しさを物語る。関西圏は関電の高料金を敬遠したい消費者の思いを表している。
 関電は高浜原発3、4号機(福井県)が動けば、5月から電気料金を引き下げる方針。料金単価を下げる抜本改定は8年ぶりだ。八木社長は「大飯原発3、4号機(福井県)が動けばさらに値下げする」と自ら宣伝する。関電との契約をやめようか迷う「離脱予備軍」に将来の値下げを約束し、少しでも食い止めたいとの狙いだ。
 ただ、高浜4号機の運転が遅れると5月の値下げもずれかねない。4号機は2月26日に再稼働してわずか3日後、変圧器周辺の故障を示す警報が鳴って原子炉を止めた。2日朝には原子炉を冷温停止状態に戻し、営業運転への手順は振り出しに戻った。
傘下でセット割
 新料金メニューはすでに打ち出し済みだ。電気使用量が多い家庭向けに今より5%程度安くなるプランを用意する。KDDI(au)とは電気と通信のセット販売で提携する。関電がKDDIに電気を供給し、「auでんき」として電気料金を割り引く。関電の通信子会社のケイ・オプティコムを通じ、光回線と電気のセット販売も始める。関電の顧客を奪いかねないが「グループ内なら構わない」(関電幹部)。
 サービス面も改める。4月からKDDIやNTTドコモ、イオンや共通ポイント「ポンタ」と提携し、自社ポイントと交換できるようにする。KDDIやドコモとの提携で主に若年層に、イオンやポンタで主婦層にお得感を訴える。
 水回りなどのトラブルに対応する有料サービスも導入する。自由化前は家庭への営業活動をほとんどしてこなかった。新サービスをてこに家庭との接点を増やし、囲い込みをめざす。
 自由化で先行する欧州では新電力に切り替えた顧客は元の電力会社に戻らず、別の新電力に移るケースが多いという。「『覆水盆に返らず』だ。最初の切り替えをいかに防ぐかが勝負だ」(関電幹部)。地元の顧客基盤を固め、原発再稼働で浮いたコストを元に料金を下げ、満を持して首都圏に打って出る――。出遅れ戦略は「首都圏に次ぐ大市場の関西圏は渡さない」という縄張り意識の強さを表している。
 
 
 日経産業新聞,2016/03/03,ページ:3