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現在いまをはかる(4)このデータは誰のもの?――「宝の山」ルール重要(終)

2016.05.16

 スーパーで買い物をした情報、トラックの運行履歴、工作機械の稼働状況……。このデータは誰のものか。
 「会員規約の変更1つとっても、役所とやりとりしなければならない」。共通ポイントのTポイントカードを使った購買情報の分析をするカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の担当者はため息をつく。
 カードで集めたデータに、個人がどのような権利を持つかはグレーゾーンだらけ。相談を受ける側の経済産業省も「明確なルールがない分野だ」(商務情報政策局幹部)と煮え切らない。
 名前や住所などの個人情報はもちろん保護されるが、法律上では形のない情報やデータの権利の扱いは不透明。匿名性を高めた情報は「誰のものかわからない」「誰のものでもないかもしれない」という曖昧な状況だ。
 今後モノとインターネットをつなぐ「IoT」が拡大すれば、“人間発”だけでなく“機械発”のデータも急増する。そうなれば、さらにややこしいことになる。
 たとえば生産の状況を示す工作機械の稼働データ。工場主、機械メーカー、センサーの製造会社などがデータの所有者になりうる。ある情報会社の幹部は「機械の稼働データなどは喉から手が出るほど欲しい。だが、企業との交渉ではデータが誰のものなのかはっきりしないことが壁になる」とこぼす。
 個人情報保護法の改正作業に携わった国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、この問題が今後のIoTの普及に向けて最も重要な問題になるとみている。「いまはデータ価格に相場がない。『カネで解決できない』こともデータ流通を妨げている」と強調する。
 このような状況を打ち破ろうという動きが出てきている。東大とNEC、日本IBMなどでつくるコンソーシアム(共同体)は「集めないビッグデータ」という考え方を打ち出した。
 プライバシーに触れる恐れがあるデータを1カ所に集めてしまえば、情報漏洩時のリスクが大きくなる。さらに誰のものかはっきりしないのであれば、いっそ集めないという試みだ。あくまで個人や企業が情報を管理し、使われても構わない内容だけをオープンにして、専門家らがこれらの情報を分析していく。
 これまでの統計は過去の結果をまとめたものだったが、ビッグデータなどで人や企業の「現在」が見えるようになってきた。この先、大量の情報を本物の宝の山にするには「いまをはかる」ためのルールづくりが重要になる。
 
 
 日本経済新聞 朝刊,2016/05/13,ページ:5