被災地寄付、広がる手段―ふるさと納税やポイント活用(M&I)
2016.05.09
熊本地震の発生から約3週間。被害の大きさから、被災地を支援したい人は少なくないだろう。従来は被災自治体や募金団体の指定口座にお金を送るのが主流だったが、最近はふるさと納税やポイントを利用する人が増えている。どんな点に注意すればいいのだろうか。
「熊本県と大分県をぜひ支援したい」。東京都に住む女性会社員のAさん(41)はこう話す。現在考えている寄付金額は両県合計で10万円。10万円と聞くとAさんはかなり懐に余裕があるようにみえるが、実際の自己負担は2000円ですむ。ふるさと納税制度を利用するからだ。
ふるさと納税は自分の応援したい自治体に寄付をすると、2000円を超えた分について所得税の還付や翌年度の住民税の減額を受けられる。全額控除される寄付額に上限があり、原則として確定申告が必要だ。
熊本地震7億円超
例えば年間所得600万円の会社員で所得税率20%の人が年5万円を寄付した場合。まず2000円を引いた4万8000円の約20%に当たる9800円が所得税から還付される。さらに翌年度に自分が住んでいる自治体に払う住民税が3万8200円減る。
自然災害で被災した自治体にふるさと納税で寄付する人は増えている。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」が熊本地震発生翌日の4月15日から災害支援を受け付けたところ、関連自治体への寄付金は2日時点で合計7億円を超えた。昨年9月の関東・東北豪雨の際も、鬼怒川などの決壊で大きな被害が出た茨城県常総市や境町に寄付の申し込みが相次いだ。
ふるさと納税制度は2008年度に始まった。ブランド米や肉、果物といった地元の特産品を返礼品として実質2000円で受け取れる例が目立つため、寄付額は右肩上がりで増えている。しかし災害支援では返礼品がない例が多い。それでも利用者が広がっているのは寄付金の使用目的が明確だからだ。「自分のお金が被災地支援に役立つという実感がある」と冒頭のAさんは話す。
ふるさと納税が使いやすくなっている点も大きい。昨年度から寄付先が5自治体までなら確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」が新設された。利用者は自治体から送られる申請書に記入して返送するだけですむ。この場合は所得税の控除はなく、その分も翌年度の住民税から合わせて減額される。インターネットでのクレジットカード決済が普及し、手軽に寄付できるようになっていることも見逃せない。
自治体が受付代行
最近では被災自治体の寄付受付事務を代行する自治体が増えている。例えば福井県はふるさとチョイスを通じて熊本県への寄付金を受け付ける。返礼品がなくても、ふるさと納税を受けた自治体は利用者に確定申告に必要な受領書やワンストップ特例制度の申請書を送付しなければならない。代理自治体に寄付すれば、被災自治体の事務負担を軽減できる。
もちろん、ふるさと納税以外の方法で支援しても構わない。被災自治体の指定口座に義援金を振り込んだり、日本赤十字社などに寄付をしたりするのが一案だ。いずれも税制上はふるさと納税と同じ控除を受けられる。ただワンストップ特例の対象外なので「確定申告を忘れないように」と税理士法人エム・エム・アイの横山雄介税理士は助言する。寄付先の自治体が発行する受領書や金融機関の振込依頼書の控えなどが必要だ。
寄付をするときはお金が何に充てられるかに注意しよう。被災自治体に直接入らず、現地で活動する自治体認定のNPO法人などの資金に使われる場合は、ふるさと納税に比べ税控除額が限られるためだ。先の例の会社員の場合、所得税控除の条件次第では控除額が計1万4600円と3万3400円少なくなる。
被災地を支援する方法として、ほかに注目を集めているのがポイントを使った寄付だ。コンビニエンスストアなどでの買い物でたまる共通ポイントや航空会社のマイル、携帯電話会社や銀行、クレジットカード会社のポイントなどが利用できる。1ポイント=1円に換算するのが主流で、インターネットを通じて手続きをすると運営会社が日本赤十字社や中央共同募金会、被災自治体などに現金でまとめて寄付するのが一般的だ。
ポイント情報サイト運営のポイ探(東京・中央)の菊地崇仁代表は「ふだんの買い物などで獲得したポイントを使えるので、新たな支出を気にせずにすむ」と話す。ポイントをためているものの、具体的な使い道が決まっていない人は寄付に充ててもいいかもしれない。
ただしポイントを通じた寄付は税制面での優遇はない。寄付の受け付けは5月末までにしている会社が多いが、延長する可能性もある。(藤井良憲)
まめ知識
ふるさと納税上限でも
確定申告をすれば控除
自治体からの返礼品目当てで、すでに全額控除の対象になる上限額までふるさと納税をした人もいるかもしれない。こうした人がさらに被災地に寄付をしても、確定申告をすれば控除を受けられる。
例えば年間所得が600万円(所得税率20%)の人が上限までふるさと納税をして、新たに5万円を被災自治体に寄付した場合。所得税から約1万円が還付され、住民税では約5000円の税額控除を受けられる。控除が受けられる寄付金額は所得税で総所得金額等の40%が上限と決まっており、この場合は240万円まで控除できる。住民税は30%が上限なので、180万円まで受けられる。
日本経済新聞 朝刊,2016/05/04,ページ:14