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自由化契機、ファン獲得の一環、スポーツ界、電力に「参戦」、サッカー、地元企業と組む。

2016.05.09

 一般家庭が電力の購入先を選べる電力自由化の導入を受け、スポーツ界からも参入が相次いでいる。主役となっているのはJリーグのクラブやプロ野球の球団など。地元の電力会社に出資したり、大手と組んでポイントの優遇制度を設けたりしている。相次ぐ参入の背景には、スポーツチームと電力会社、互いの思惑の一致があるようだ。
 「鈴木隆行 地元の水戸電力を選びます」――。サッカーJ2水戸の本拠地、ケーズデンキスタジアムの敷地内にあるブースには、こんな言葉が書かれたチラシが大量に張られている。水戸でプレーした元日本代表の鈴木氏の力を借り、同社への契約切り替えをPRするためだ。
 水戸は昨年、地元の太陽光発電システム企業と共同で新電力会社の水戸電力を設立。今年4月からの電力自由化を受け、一般家庭向けの販売を始めた。サポーター向けのプランも提供。1年間契約を続けた人には試合の入場券を贈るほか、抽選で選手のサイン入りユニホームなどをプレゼントする。
 同社の電力の3割は再生エネルギーで、ほとんどは茨城県内の太陽光発電で生まれている。「エネルギーの地産地消など地域貢献活動の一環として取り組んでいる」。水戸の渡辺欽也営業部長は話す。
 ただ、一般の市民が各社の料金を比べて契約する会社を決めるのは手間も掛かる。水戸電力もサポーターからの契約件数はまだ100件強。「スタジアムのブースに来てくれた人には興味を持ってもらえる。1対1でさらにじっくり話していきたい」と同社の岡野太郎電力部長は意気込む。
 サッカー界ではJ2札幌も昨年、電力会社のエゾデンを設立した。野々村芳和社長がCMに登場し、契約を訴える。収益の一部をスポーツ振興に還元するという。J1湘南が出資する地元の電力会社も、10月に一般家庭向けの販売を始める予定だ。
 Jリーグのクラブより商圏が広くファンの数が多いプロ野球球団は大手と組む。広島は中国電力と協力し、電力の利用料金などに応じてたまるポイントを入場券などに交換する。話を持ちかけたのは中国電力。広島のファンは他地域にも多く、タッグを組むことで同社は関東などへの進出への足がかりを得られる。
 もちろん、スポーツチームにとってもメリットはある。広島は「県外、特に関東のファンにも球場に来てもらいたいので、そういう方にアプローチできるイベントに取り組んでいきたい」と狙いを語る。関東在住の人が電力会社の変更をきっかけに球場に足を運べば、球団の新たなファン開拓につながる。
 水戸電力は水戸サポーターの契約件数が3000件に達すると主催試合の冠スポンサーになり、5000件でスタジアムのピッチ横に看板を出す取り決めを結んでいる。クラブにとってはスポンサー収入拡大の好機にもなっている。スポーツチームと電力会社の新たな形の連携は、スポーツの市場全体を広げる可能性もある。
 
 
 日本経済新聞 夕刊,2016/05/02,ページ:11