電力新時代自由化スタート(上)北陸電、揺らぐ独占、ソフトバンクと提携、KDDI参入、競争激化。
2016.03.31
電力の小売り自由化が4月1日から始まる。北陸3県ではKDDI(au)が家庭用市場に参入する。長く独占してきた北陸電力もソフトバンクと提携し迎え撃つなど、自由化を生き抜いた通信各社を巻き込む構図となった。こうした民間企業の競争は、3県の自治体が手掛ける公営エネルギー事業にも影響を及ぼしそうだ。自由化に挑む事業者の動向を追った。
「双方のブランドを生かした魅力的なサービスを提供できるよう検討していく」。30日に記者会見を開いた北陸電の金井豊社長は電力の小売り自由化を踏まえて、ソフトバンクと提携に向けた協議を始めたことについて、こう語った。
サービスの内容は「これから詳細を詰める」(金井社長)が、北陸電の電気とソフトバンクの通信をセットにした割引、両社のポイントサービスの連携などが候補に挙がる。導入時期についても「そんなに時間をかけてはいけない」(同)と述べ、早期の実現を目指す方針を示した。
北陸電はかねて他社との連携に含みを持たせていた。金井社長は「KDDIが参入したから急に決めたわけではない」と否定するが、同社と付き合いのある経営者はKDDIの参入を境に「目の色が変わった」と話す。
1銭安く設定
KDDIの北陸における電気料金単価は、北陸電よりも1キロワット時あたり1銭安く設定。毎月の電気料金に応じて携帯電話の料金や食品の購入に使えるポイントが1~5%たまるサービスも導入する。例えば3人世帯で月々の電気料金が1万500円の家庭では、年6300円お得になる。
同社はあくまで「auユーザーの満足度を高めて顧客をつなぎとめる」ことが目的としているが、大手電力会社の中で全国一安い料金を強みとしてきた北陸電にとっては、強力なライバルが現れたと言える。
NTT系も参戦
家庭用とは別に4月から電力販売に参入する企業もある。歯科関連用品販売の歯愛メディカル(石川県白山市)は、全国の歯科医向けに電力の販売を始める。各地の大手電力よりも5%前後安い料金を打ち出した。17年3月末に3000件の顧客を得る考えで、すでに700件を確保した。
同社が売る電力を供給するのは、新電力のエネット(東京・港)。北陸3県でも自治体向けなどの供給で実績がある。同社はNTT傘下で建設や電力設備を手掛けるNTTファシリティーズを筆頭株主に持つ。
ソフトバンク、KDDI、NTT――。3県で電力の小売り自由化を機に登場した新顔は、いずれも1985年に始まった通信自由化を勝ち抜いたプレーヤーたちだ。通信業界では携帯電話市場の成長もあり、90年代半ばには60社近くが存在したのが、ほぼ3社に集約された。KDDIの幹部は「電力も通信の自由化と同じ構図になる」と指摘する。
東京電力のほか、ガス・石油会社などがしのぎを削る首都圏に比べ、北陸はまだ参入企業が少なく、北陸電からの切り替え申請も約700件(18日時点)にとどまる。だが収益構造や事業基盤も違う異業種を交えた自由化の競争は単なるシェア争いにとどまらず、長期的には事業者の顔ぶれを一変させる可能性を秘める。生き残りをかけた競争の号砲がついに鳴る。
日本経済新聞 地方経済面 北陸,2016/03/31,ページ:8