迫る電力全面自由化(1)消える地域・業種の壁――震災機に改革促進(時事解析)
2016.01.12
2016年4月から電力の小売りが全面自由化される。家庭向けの電力販売へ企業の参入が可能になり、消費者は自由に電力会社を選べるようになる。17年には都市ガスの小売りも全面自由化される。電力・ガスの自由化で何が変わるのか。
電力小売りの全面自由化は政府が進める電力市場改革の目玉だ。これまで一般家庭や小規模店舗向けの電気は全国10地域に分かれた電力会社が独占的に供給してきた。全面自由化により自由に参入できるようになる。
電力自由化の対象は全国で約8500万件。17年のガス自由化では約2600万件が対象で、あわせて約10兆円の市場が開放される。電力事業やガス事業を隔てる「地域」や「業種」の壁がなくなり、企業は選ばれるために料金やサービスを競う必要に迫られる。
小売り全面自由化の狙いは新規参入を通じた競争の促進と、利用者の選択肢の拡大だ。日本の電気料金は米欧に比べて割高だ。多様な事業者の参入による料金の引き下げと、新たなサービスの登場に期待が高まる。
政府は00年以降、電力自由化を段階的に進めてきた。大口需要家向けなど販売電力量の6割はすでに自由化されている。にもかかわらず成果は十分といえなかった。改革の速度が上がるきっかけは5年前の東日本大震災だ。
震災後の電力不足は地域で分断されている10電力体制の非効率さを露呈した。橘川武郎・東京理科大教授は「互いに競わず、“お役所”のような存在になった電力会社の活力の欠如があらわになった」と指摘する。(編集委員 松尾博文)
日本経済新聞 朝刊,2016/01/04,ページ:27