オリックス・バファローズ、クラウド使いファン育成――データ分析で40%増収(IT経営フロンティア)
2014.03.12
「ポイントをためるのが楽しい」「スタッフの対応がスムーズになった」。プロ野球球団オリックス・バファローズを運営するオリックス野球クラブにはファンからこんな声が返ってくるようになった。同社は2012年に会員向けサイトを新設し、膨大な会員データを分析するシステムを導入した。2014年シーズンは会員数が前年同期より20%、売上高が40%増えるなど着実に効果を上げている。
新たな会員システムをつくった狙いは、会員情報を正確に把握するところにあった。それまでは試合の日にファンが来場すると、スタッフが会員手帳のバーコードを読み取り、名前や年齢、性別などの属性データをシステムに記録。同時にスタンプカードに来場ポイントを押していた。
だが忙しくなると読み取り作業は省かれることが多く、スタンプ情報は本人以外には知りようがない。「きわめてアナログで情報精度も低かった」(オリックス企画事業部の緒方貴弘企画グループ長)。
新システムでは日立ソリューションズの顧客情報管理(CRM)の仕組みを採用。ポイント情報を自動蓄積し、チケットや商品の購入履歴などを集約できるようにした。
「誰がいつ何人で来場したか」「どの店で何を買ったか」「ビールの割引に反応したか」――。
次々と集まるデータは「宝の山」。使わない手はない。データを分析することで、内野や外野など座席タイプごとの売れ筋動向や、対戦カードごとの来場者数などが分かるようになった。
会員の消費行動が一目瞭然になれば、個人を狙い撃ちにしたマーケティングも可能になる。例えば、観戦中にビールを何杯も飲む会員に「次の試合はビール割引デーです」とメールを送れば、足を運ぶ可能性は高まる。ユニホームやTシャツなどグッズをよく買う会員には、新商品を発売したタイミングの告知メールが欠かせない。
会員の利便性も高まった。会員サイトでは個人ごとの「マイページ」を作成。お気に入り選手を登録しておけば、基礎データだけでなく最新の成績をスマートフォン(スマホ)やタブレットから好きなときにチェックできる。保有ポイントで交換できる商品もすぐにわかる。自分が来場した際のチーム勝率を計算するなどファン心理をくすぐる仕掛けも凝らした。
システム面では導入負担を大きく抑えた。チケット販売など既存システムを生かしながら新機能を追加。日立ソリューションズビジネスイノベーション部の高橋敏治氏は「必要な機能だけを選んで外部システムと柔軟に連携できる」と強調する。クラウド型にしたことで社内型システムよりも初期費用を10分の1程度まで減らしたという。
会員登録はシーズンごとに必要。13年11月に始まった今シーズンの登録者数はすでに前年同期の20%増の3万人に達した。シーズン終了までに5万人獲得の目標を掲げる。
将来的にはフェイスブックやツイッターなど交流サイトとの連動を視野に入れる。「ウェブ上の口コミで会員がさらに増える仕組みをつくりたい。ファンクラブが生み出す収益を最大化する手を打っていく」(緒方氏)とシステム改革に余念がない。球団経営は、固定客の来場をいかに増やすかがカギを握る。熱烈なファンの育成に向けた挑戦はまだまだ続きそうだ。
日経産業新聞,2014/03/07,5面