資生堂、専門店に新取引制度、前田改革、最終段階へ、販売意欲向上狙う。
2014.01.15
資生堂が化粧品専門店との取引制度を見直す。2014年4月に専門店向け協賛金の体系を簡素化して支援にメリハリをつけ、商品の卸価格も下げる。会長兼務で今年4月に再登板した前田新造社長が店頭の不良在庫回収に続いて打ち出した新政策で、構造改革は最終段階に入る。専門店ルートが同社の国内化粧品販売に占める割合は約2割強まで落ち込んでいるが、高額品の消費が回復している現在は立て直しの最後の好機だ。
資生堂の化粧品専門店の売上高全体の8割弱を占める約3千を「プラチナショップ」と認定し、ブランド別など12種類に細かく分けていた協賛金を2種類に集約する。1つは専門店専用ブランド「ベネフィーク」の販売実績、もう1つはプラチナショップのクラス(等級)だ。クラスは店頭売上高、優良顧客の数(前年度実績)などで9つに分類。協賛金の支払い頻度も2カ月から1カ月単位に変更し店のキャッシュフローを改善させる。
従来の体系では何に対し、どれだけお金がもらえているのかがわかりにくく「店のモチベーションが高まりづらかった」(専門店部)。来年度以降はベネフィークを売るほど、クラスの等級が上がるほど協賛金の額が増える。期初にその年度分の確定額も伝え、販促計画を立てやすくする。
ベネフィークの卸価格は現在は販売価格の70%だが、63%に下げる。「店に『もうかるブランド』として認識してもらい、最優先で売ってもらう」(同)ためだ。資生堂の利益率は減るが、各店が増えた取り分でエステの導入や試供品の配布などを促す。ベネフィークの販売数量が全店合計で前年度より1割以上増えれば、資生堂の利益も増えるもようだ。
ベネフィークの掛け率は前田氏が前回社長を務めた07年に65%から70%引き上げた経緯がある。専門店から吸い上げた利益で資生堂がテレビや雑誌を使って広告を打つ方が効果的に販促ができるとの判断からだった。
しかし消費者の情報収集の仕方も変わり、「雑誌に広告を載せたからといって必ずしも売れる時代ではない」(大手化粧品メーカー)。「これまで自分がやってきたことを否定し、聖域なき改革を断行する」と言及していた前田氏。今回の掛け率引き下げで「自らの否定」を具体的に示したともいえる。
取引制度の見直しについて、専門店は「最も期待していた改革」(全国化粧品小売協同組合連合会の山口喜兵理事長)と歓迎する。資生堂も「必ず専門店の後押しにつながると確信している」(専門店部)。もっとも、それは掛け率引き下げで増えた取り分を各店が生かし、販売増に結びつけることが大前提だ。
前年度(13年3月期)が8年ぶりに最終赤字になったのを受け、前田氏が社長に復帰してほぼ9カ月。仏の2子会社を仏ロレアルに譲渡する方向で交渉を始め、専門店などの店頭在庫を計105億円で回収することを決めるなど今秋から改革に向けた対策を矢継ぎ早に打ち出した。「成長の行く手を阻む経営課題をほぼ解消できるメドがついた」(前田氏)
14年秋には50代以上のシニア向け新ブランドを導入。世界共通の「SHISEIDO」、スキンケアの「エリクシール」、メーキャップの「マキアージュ」という主力3ブランドを全面的に見直す。これほど大規模なブランド刷新は05~06年以来で、社運をかけた勝負に出る。新制度導入の最初の半年は、その試金石になりそうだ。
日経MJ(流通新聞),2013/12/18,6面