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店で見た服、ネットで吟味、WEAR、妙薬か劇薬か

2013.11.25

●買い物客「アプリで便利」、200ブランド参加

 衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが提供を始めたスマートフォン(スマホ)の新アプリ「WEAR(ウェア)」。店頭で商品バーコードを撮影すれば、インターネットでどこでも買える。消費者には便利だが、商業施設は、店が下見の場になる「ショールーミング化」を恐れる。新アプリは、新しい需要を掘り起こす「妙薬」か、それとも業界の混乱を引き起こす「劇薬」か――。
 11月のある週末の夕方。東京都内の会社に勤める藤原葉月さん(25)は池袋パルコ(東京・豊島)内のお気に入りのブランドショップに入ると、手にしたスマホでWEARを立ち上げた。冬用コートのバーコードを読み取り、画面に表示された色違いのコートやサイズなどを確認すると、その場では買わずに店をあとにした。
 藤原さんは移動中などの空き時間、毎日のようにゾゾタウンで洋服をチェックする。衣料品を実際の店舗で見たうえで、自宅でゾゾタウンから購入したこともある。藤原さんは「WEARを使えば、店で見た商品をじっくり吟味して簡単に買えるようになるので便利になる」と話す。
 WEARはスマホでダウンロードすれば利用できる。店頭でバーコードを読み取るには、参加するブランドの店頭に設けられた「チェックインコード」と呼ばれるバーコードをまず撮影する必要がある。店頭のコードを撮影しない限り、店内商品のバーコードは撮影できない。
 いったんチェックインすれば、どの商品のバーコードも読み取れる。商品の価格や色など詳細な商品情報がすぐに見られるだけでなく、ほかの利用者やブランドのショップ店員などが投稿したコーディネート画像も表示される。
 利用者は店頭に並ぶ商品を買うこともできるが、ブランドの自社サイトやゾゾタウンからでも注文できる。例えば、カフェや自宅などで他の商品と比較してから買うかどうか決めることもできる。店頭に色やサイズがなかったときにも便利だ。
 参加したのは、ユナイテッドアローズやアーバンリサーチ、トップショップなど10~30代を主な顧客層にする約200ブランド。「ネットと店舗の利用客を融通することで売上高全体が伸びる」(ユナイテッドアローズ)と考える企業の参加は増えている。
 アプリのダウンロード数も順調に伸びている。米アップルのコンテンツ配信サービス「アップストア」の無料ライフスタイルアプリのランキングでも上位に名を連ねる。「滑り出しはゾゾタウンを上回る勢い」(WEAR事業部の中川龍ディレクター)という。
 ゾゾタウンをよく使い、パルコに8日夕に足を運んだ千葉県印西市の男性会社員(31)は「お気に入りのブランドではまだできないので、店が増えてくれるといい」と話す。今後は利用者の伸びに比例して、使える「場」をどこまで増やせるかがカギになる。

 

●ショールーミング化警戒、パルコ除いて商業施設慎重

 「WEARへの参加は遠慮してほしい」。WEARが導入される直前の9~10月、三菱地所は同社の商業施設に入居しているテナントに書面で通知した。同社は「全体がにぎわうことを前提に施設づくりをしている。店頭での決済につながらないサービスは想定外だ」と説明する。
 ルミネ(東京・渋谷)も6月中旬に、ルミネ店内での写真撮影は原則禁止とする書面を入居テナントに送付。その後も、テナントに規則を順守するよう要請した。商業施設は、WEARへの参加を見送るようテナントへの圧力を強めた。
 背景には、WEARで商業施設の運営が脅かされるとの懸念がある。一般的に商業施設の入居テナントの多くは、固定分と売り上げに応じた歩合分を合わせた賃料を支払う。店舗で撮影した商品がWEAR経由で購入され、店舗の売り上げに計上されなければ、商業施設の収益は低下する。いわゆる「ショールーミング化」に拍車がかかれば、ビジネスモデルが根底から覆りかねないとの恐れだ。
 そうしたなかで、商業施設のなかで真っ先に参加表明したのがパルコ。牧山浩三社長は「IT(情報技術)は発達しており、どう化けていくかわからない。早めに組んでおいたほうが有利だ」と理由を説明する。
 もちろんそれだけではない。今回、パルコとスタートトゥデイはある仕組みを採用した。それは、パルコの商業施設でWEARを使って消費者がネット経由で商品を買えば、売り上げの数%にあたる手数料をスタートトゥデイがパルコに支払うというものだ。
 ただ、この枠組みは来年4月末までの試験導入という位置付け。両社が継続で合意できるか、改めて話し合う場面がやってくる。

    日経MJ(流通新聞),2013/11/22,1面

担当者のコメント

 ZOZOタウンが究極のO2Oとも言えるアプリを投入してきた。参加ブランドのリアル店舗で見て(試着して)、商品バーコードを記憶させ、後にアプリ上で購入できるというもので、限りなくリアル店舗がショールームと化すようなビジネスモデルである。当然、参加店からは賛否両論で、中小はこのモデルに乗り恩恵を感ずるとしても、大手の反発は大きいと想像される。大手は自社会員サイトやアプリ投入により、独自囲い込みへの投資を強めている。しかしながら大局的な視野で見れば、ZOZOの動きは時代の流れに沿うものだろう。制作・製造と流通の垣根を取り払うこのような流れは、どの業界でも起こり得ることであるし、類似の事例は枚挙に暇がないのも事実だ。誰がこの「ボトルネック」を握るか、ということに尽きるのだろう。