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三陽商会、100年コート――マーケティング戦略室担当課長和田稔氏、職人技に現代ニーズ(開発モノがたり)

2014.01.27

 創業70周年を迎えた三陽商会が昨年10月に発売したトレンチコート「100年コート」が注目されている。開発の原点となったのは、もの作りの象徴として長く着られる上質なコートを作り出そうという熱意。長い歴史で培った職人技に現代のニーズを反映した工夫を組み合わせ、新たな価値を紡ぎ出した。
 100年コートは主に国産素材を使い、青森県のコート専用工場で職人が丁寧に仕上げた高級コート。8万円台と高価格ながらも既に生産分の7割を売り上げたヒット商品だが、三陽商会は当初、商品化を予定していなかったという。
 同社は昨年の創業70周年を機に「TIMELESS WORK. ほんとうにいいものをつくろう。」との企業メッセージを打ち出した。これを訴求するための短編映像を作り、4月にインターネットで順次配信した。こだわりのコートをアパレルメーカーの若手社員が企画し、商品化するまでの悪戦苦闘を描いた全4話のストーリーだ。
 映像のなかのコートを現実の商品として世に出せれば、企業姿勢を消費者に実感してもらいやすくなる。映像の企画過程で「本当に作ってしまおうかという話が出てきた」。マーケティング戦略室担当課長の和田稔さん(52)はこう振り返る。
 もともと同社ではものを大切に使う人が増えている点に注目し、上質なコートを作ろうという別のプロジェクトが同時期に動いていた。昨年初頭に2つのチームが合流。企業姿勢を伝える象徴として100年コートの開発が本格的に始まった。
 コートは同社の創業時の主力商品。「求められる本質的な価値は何か」「100年たっても飽きがこないデザインとは」といった熱い議論を交わし、随所にこだわりを込めた。デザインは1950年代にフランスの映画女優が着たコートをモチーフにした「ササール・コート」の雰囲気を継承。国産の上質な生地をふんだんに使い、現代風にアレンジした。
 襟は形崩れしにくいように2つのパーツを組み合わせ、職人が手縫いで取り付ける。袖のベルト位置を少し上にずらしたり、裾の縫い目をなくしたりし、擦り切れても修理できるように工夫。全体として着たときに体にフィットしやすく、軽く感じられるデザインに仕上げた。
 現代ならではのニーズにも配慮した。湿気を吸って発熱する中綿を使って軽量化したほか、紳士コートにはスマートフォン(スマホ)用のポケットを取り付けた。「100年オーナープラン」という購入者向けの会員制度を作り、生地やボタンなどの補修やカスタマイズに対応するのも新しい試みだ。
 「もの作りへのこだわりを多くの消費者に伝えたい」と意気込む和田担当課長。好調な滑り出しを受けて、三陽商会は今後も同シリーズを継続する。「100年」の言葉に込めた思いはトレンチコート以外にも広がる可能性がありそうだ。

日経産業新聞,2014/01/24,19面