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電力自由化(中)早くも消耗戦―値下げの先が勝負。

2016.02.22

 2月1日、横浜市の工業地帯にあるガス火力発電所が出力を約5割拡大した。規模は原子力発電所に匹敵する122万キロワット。東京ガスと昭和シェル石油が共同運営する。家庭向け電力小売りはいかに安く電気を調達するかが勝負になる。発電効率が高い最先端の火力発電を自前で増やし、値下げの原資をひねり出す。
 電力自由化を受けJXエネルギーや出光興産、新日鉄住金やJFEスチールなども発電設備の増強を計画。合計規模は1000万キロワットを超える。増設ラッシュが進むなか、淘汰も始まった。
 「電気は供給過剰になる。とても採算が合わない」。大阪ガスは2015年末、茨城県で検討していた石炭火力発電所の建設を断念した。出力10万キロワットの小型設備で17~18年度の早期稼働を目指す戦略。他社の相次ぐ大型計画を受け、見直しを余儀なくされた。
大手は「越境」
 約20兆円という国内の電力市場。しかし、経済産業省が予測する30年度の電力需要は13年度比で1・5%増とわずかな伸びにとどまる。限られたパイの争奪戦は必至だ。
 今回の自由化で営業区域の縛りもなくなる。新電力の攻勢を受ける東京電力など大手電力は「越境」に打って出る。
 東電が1月に発表した新しい料金メニューに関西電力の営業担当幹部は度肝を抜かれた。関西向け料金が関電の現行料金を約1割下回っていたからだ。全国の大半の原発が停止するなか、電源の原発比率が高い関電は懐事情が厳しい。東電幹部は「首都圏では顧客を取られる。蓄えた利益をはき出しても域外を取りに行く」と容赦ない。
 関電も電力会社の変更を考える顧客の引き留めに必死だ。高浜原発3号機が稼働した1月29日、八木誠社長は「新年度のできるだけ早い時期に値下げする」と表明した。再稼働する原発が増えれば、首都圏進出による反転攻勢も視野に入る。
 電気料金の8~9割は発電や電気を家庭に届ける託送にかかるコストが占める。さらに値下げが進めば、薄利多売に拍車がかかり、消耗戦の様相は色濃くなる。
 「電気でもうけるつもりは全くない」。東京急行電鉄子会社の新電力、東急パワーサプライ(東京・世田谷)の村井健二社長は言い切る。
囲い込みが目的
 誰もが使い続ける電気は顧客を囲い込むための手段。グループの鉄道定期券やケーブルテレビ、クレジットカードとのセット契約で値引きを設定し、「生活サービス全般をワンストップで提供する」(村井社長)。
 ガス会社や通信会社などセット販売で参入する新電力の多くは同じ狙いを持つ。日本総合研究所の滝口信一郎氏は「料金に加え、サービス面の充実を打ち出せるかが勝負になる」と指摘する。
 自由化の先進国、米国で11年からガスと電力をセット販売するLPガス大手の日本瓦斯。消費者は不満を持てば、次々と電力会社を乗り換える。進出したテキサス州は新電力が60社以上に増える一方、倒産や合併も相次ぐ。日本瓦斯は保険の取り扱いなどにサービスを広げ、いまは8州に17万件の顧客を持つ。
 電力はそもそも大きなもうけが出るビジネスではない。コスト競争力を磨きながら、消費者をつなぎ留めるサービスをどう打ち出すか。値下げの先の一手が問われる。
 
 
 日本経済新聞 朝刊,2016/02/21,ページ:1