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NTTドコモ(上)Bigdata、dPOINTで反攻、閲覧・購買履歴からお薦め、顧客6000万人AIで分析(変わる巨人)

2016.11.21

ビッグデータ
 NTTドコモがビッグデータ解析の巨人になろうとしている。約6000万人の顧客基盤を生かし、ネット通販やウェブサイトの閲覧履歴などのデータをもとに、お薦め商品の情報を提供するサービスを近く始める。革新的なサービスを生み出せず、1契約あたりの収入が減少し続けているドコモ。反攻のカギを握るのが共通ポイントの「dポイント」だ。
 ドコモの雑誌読み放題サービス「dマガジン」を利用してスマートフォン(スマホ)で雑誌をぱらぱらめくる。するとコンビニエンスストアの新作スイーツの特集が目に飛び込んできた。
 「おいしそうだなあ」と眺めた後、ウェブサイトを開くと画面の下に「新作スイーツが今なら100円引き」と書かれたクーポンが表示された。さっそく会社からの帰り道にコンビニに立ち寄って購入、自宅で舌鼓をうった――。
 ドコモが構想中のビッグデータ解析サービスが実現すれば、こんな風景が日常のものになるかもしれない。
年に600億円発行
 利用者の購入履歴をもとに最適な商品を薦めて売り上げを伸ばすネット通販世界最大手の米アマゾン・ドット・コム。ドコモもアマゾンと同じように、利用者の了解を得たうえで個人を特定できない形で情報を収集し、自前の人工知能(AI)で分析してお薦めの情報を提供するサービスを早ければ年内に始めようとしている。
 スマホに備わっている全地球測位システム(GPS)と組み合わせれば、利用者がコンビニに近づいたときに、コンビニで売られている商品に関する情報を表示することも可能だ。
 ドコモの村上享司取締役が「通信会社としての強みを最大限に生かせる」と語るこの事業。対価は自社の商品をドコモの利用者約6000万人にPRしたい企業から受け取る。
 さらに「このシャンプーをネットで買う人は、○×という動画をネットでよく見ています。その動画の表示画面に広告を出せば効果を引き上げられます」といったPR手法を企業に提案できるようになる。携帯電話会社というよりは、マーケティング会社の事業領域といえる。
 ビッグデータ解析で重要な要素となるのがドコモが2015年12月に始めた共通ポイントサービスのdポイントだ。
 「店を利用してもらったことがない顧客に来店を促せるのが魅力だ」。ローソンの営業戦略本部の酒井勝昭本部長補佐はdポイントを全国約1万2000店に導入する狙いを説明する。
 ローソンには三菱商事系のポイントサービス「Ponta(ポンタ)」があるが、ポンタを利用していない消費者にアプローチするのは難しい。dポイントとの併用で新規客の来店が増え、売り上げを伸ばす店が出ているという。
 dポイントを導入した小売店はローソンや日本マクドナルド、高島屋、上新電機など。10月時点で全国で2万を超える数の店で使えるようになった。ドコモの吉沢和弘社長は「サービス開始からまだ1年もたっていないのに利用可能な店舗数が倍増した」と胸を張る。
 会員数では、楽天が運営する「楽天スーパーポイント」の約1億1000万人やポンタの約8000万人に及ばない。Tポイント・ジャパンの「Tポイント」の約6000万人とは、ほぼ肩を並べる水準だ。
 だが、「ポイントの発行額で見ると単一の企業としては日本で有数の規模」。ポイントサービスに詳しい野村総合研究所の冨田勝己・上級コンサルタントはdポイントをこう分析する。
 全国に約6000万人いるドコモの携帯電話とスマホの利用者は毎月、通信料の1~10%に相当するdポイントをもらえる。ドコモの通信サービスの収入は15年度で約2兆8000億円に達する。年に600億円ほどをポイントとして振り出しているようだ。「大きな顧客基盤がdポイントの魅力だ」(日本マクドナルドPR部)
 消費者がdポイントをためるために買い物をしたり、dポイントで何かを買ったりすれば、そのデータはドコモに集まってくる。ネット関連サービスの利用履歴に加え、日ごろの買い物に関する膨大なデータがあれば、解析のレベルは格段に上がる。
「土管」から脱却
 dポイントが担っている役割はビッグデータの収集だけではない。
 利用者が通信料の支払いでためたdポイントを店で使ったり、買い物でためたdポイントを月々の通信料の支払いに充てたりするようになれば、KDDI(au)やソフトバンク、格安スマホへの切り替えを防ぎやすくなる。ライバルからの攻勢をはじき飛ばす盾のような役割だ。
 ネット通販や動画配信など、ドコモが「スマートライフ領域」と呼ぶ事業でも、dポイントは決済手段の1つとして位置づけられている。
 ドコモはこの領域の営業利益を16年度に15年度比6割増の1200億円に伸ばす計画を立てている。「ドコモ経済圏」の構築だ。16年度のドコモの予想連結営業利益約9400億円に占める比率は1割強でしかない。それでも計画通りになれば、ネット大手の楽天の連結営業利益を抜く可能性がある。
 ドコモをはじめとする携帯電話会社は自らを「土管」と呼ぶことがある。音楽や動画などのコンテンツ事業者に通信インフラを提供しているだけという自虐的な意味だ。最大手のドコモはその表現が最もあてはまるともいえる。
 ドコモの吉沢社長は周囲には「敵をつくらずバランスを取る気配りの人」と評されている。dポイントを駆使したイノベーションを起こせれば、「脱土管の先導役」と言われるかもしれない。
「iモード」色あせ停滞感
 ドコモは1999年にネット接続サービス「iモード」を開始して急成長を遂げて、時価総額で日本企業首位の座についた。2001年度には営業収入(一般企業の売上高に相当)が5兆円を突破し、営業利益も1兆円を上回った。
 だが、ドコモが一番輝いていたのはこのときだった。IT(情報技術)バブル崩壊で03年以降は時価総額首位の座を明け渡し続けている。08年に米アップルの「iPhone」が日本に登場した後はiモードの魅力も色あせ、ドコモの営業収入は伸び悩んでいる。
 競合のKDDI(au)やソフトバンクからは値下げ競争を仕掛けられている。ドコモの契約者1件あたりの月額収入は1997年度には1万円を超えていたが、2015年度は4170円と約4割に減った。
 携帯電話各社は、契約者数を増やしているが、タブレット(多機能携帯端末)や格安スマホなど月額収入が低い回線で契約している人が含まれている。営業収入が伸びにくい構造になっており、事業の枠組みを変える必要に迫られている。
 
 日経産業新聞,2016/11/21,ページ:1