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「スーパーの女」つかみ支配力、H2O、関西スーパーと提携、ローカル覇者、存在感増す。

2016.11.01

 食品スーパーを軸に流通再編のうねりが広がり始めた。エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は10月6日のセブン&アイ・ホールディングスに続き、27日には同じ関西地盤で、映画「スーパーの女」のモデルになった関西スーパーマーケットとも資本業務提携を発表。地方の有力小売りは地元の暮らしにどっぷり入り込む「ドミナント化」で寡占を狙う。こうした地域はイオン、セブン&アイHDの2強も攻めきれない。再び群雄割拠の時代に戻った観がある。(関連記事5面に)
 「毎日買いに来る。高い訳でもないけど、安い訳でもない。でも、それでええんとちゃう?」
 10月下旬の昼下がり。関西スーパーが創業の1959年から営業を続ける1号店「中央店」(兵庫県伊丹市)で買い物をした70代女性はつぶやいた。今年8月に全面改装し「商品数も増えたし、通路も広くなって買い物しやすくなった」。同市内に10年住む30代主婦が「毎日ちょこちょこ使う」と語るように、関西スーパーは関西人の日常生活に溶け込んでいる。
 関西スーパーは故北野祐次氏が創業。ダイエー創業者の故中内〓氏らとともに米国のスーパーの運営ノウハウを取り入れ、日本で近代的なスーパー業態を確立した草分け。96年公開の故伊丹十三監督の映画「スーパーの女」は同社がモデルだ。
 99年に売上高1千億円を突破。北野氏は02年に大番頭だった故井上保氏に社長を譲る。井上社長は「20年に100店舗、売上高2千億円」を掲げたが、他社との競争激化で苦戦するなか井上氏が病に倒れる。総務畑の福谷耕治氏が14年10月に社長に就任し、自力再建を模索してきた。
 この間、関西スーパーには多くの流通大手が秋波を送ってきた。好立地に多くの店を構え、全国の中堅スーパーの模範となる安定した店舗運営のノウハウを持つからだ。
 14年11月に井上氏が逝去した際、関西スーパー大株主の伊藤忠食品幹部が滋賀県地盤の平和堂の夏原平和社長に「関西スーパーを助けてやってくれ」と話し、平和堂も検討したとされる。
 15年にはセブン&アイやイオンによるグループ化の噂が飛び交う。今年9月にはディスカウントストアのオーケー(横浜市)が関西スーパー株の8%強を保有する大株主となったことも発覚した。だが、関西スーパーが選んだ相手は関西の雄、H2Oだった。
 「同じ関西に基盤を置き、同じ土壌とビジョンを持って企業経営ができる。地域の方にも後押しをしてもらえる」(関西スーパーの福谷社長)
 関西スーパーにとってH2Oの魅力は何か。ライフコーポレーションなど自社の商圏内で積極出店する競合大手に対し、劣る資金力を補完してもらい、新規出店や改装などの成長資金を得る必要があった。その上で決め手となったのが関西スーパーが多くの店を構える阪神間を中心に関西で強いH2O・阪急百貨店の「ブランド力」だ。
阪急ブランドで
顧客の支持拡大
 高級ブランドが並ぶ阪急百貨店や高級品の品ぞろえに強いスーパーの阪急オアシスなど「阪急ブランドのイメージはいい」(福谷社長)。レンジで温める総菜をH2O側から調達し、輸入の魚介類などの仕入れ共同化も進める。中元や歳暮などの贈答品でも店頭で阪急百貨店の商材を扱うなど、阪急ブランドの活用で関西スーパーの既存顧客からの支持を広げられると踏んだようだ。
 一方、14年12月の関西スーパーへの提携打診から2年越しの求愛を実らせたのがH2Oだ。阪急うめだ本店(大阪市)を頂点とした百貨店事業に加え、業態を広げて関西地域の消費者との接点を広げる「関西ドミナント化」戦略を進める中で、狙いを定めたのが食品スーパーの拡充だった。
 06年には食品スーパー「ニッショーストア」を買収。百貨店発祥の食品スーパー「阪急オアシス」と融合し、基盤を強化。14年1月には関西の老舗総合スーパー(GMS)のイズミヤとの経営統合を発表した。
 関西スーパーはH2Oがドミナント化を進める関西でも最大の足場である阪急・阪神沿線の好立地に多くの店を持つ。関西スーパーがイオンなど競合大手と手を組まれることはH2Oにはなんとしても避けねばならないことだった。
 最初の提携打診の際、創業以来初の経常赤字という苦境にあった関西スーパーの福谷社長から「まず1年経営再建に専念させてほしい」と言われ、H2Oは交渉を一時棚上げ。関西スーパーが黒字転換した今年2月に具体的な協議に入った。
共通ポイントで
囲い込みを狙う
 折しも9月にはオーケーによる関西スーパー株の買い付けが発覚。経営統合をちらつかせるオーケーの突然の登場がかえってH2Oとの協議を進展させたフシがある。
 今回の提携で阪急阪神グループの共通ポイントである「Sポイント」の関西スーパーへの導入も決まった。H2Oが顧客囲い込みの鍵と見るポイントサービスで関西スーパーの既存顧客をも自社の商圏に取り込める。
 関西の食品スーパー団体幹部は「H2Oは徐々に信頼関係を深めて提携内容を増やす」とみる。将来は高級路線の阪急オアシスと日常使いの関西スーパーとイズミヤの3ブランドを最適立地に配置し、阪神間の消費者の購買行動を「面」で捉える作戦との見立てだ。
 図らずもH2Oは窮地に陥ったセブン&アイと今月6日に資本業務提携を発表。そごう神戸店(神戸市)などドミナント地域の東西の両端にある3拠点を承継する。さらにコンビニエンスストア業態への足場も得ることに成功した。だが、H2Oの鈴木篤社長は「まだ我々にはドラッグストアも家電量販店もない」とし、さらなる他業態への進出に意欲を示す。
 固い地盤を持つ地方の有力小売りの攻勢例は他にもある。広島地盤のイズミは15年10月に広島、岡山、山口、福岡の4県に店舗網を持つユアーズを買収し、今年2月には北九州のスーパー大栄を完全子会社化。平和堂も今月27日、県内老舗のパリヤ(滋賀県彦根市)との業務提携を発表した。
 地方商閥が攻勢をかける背景には消費者の購買行動の変化がある。アベノミクスを追い風に一時は「ちょい高」商品が売れたものの、実質賃金はさほど伸びず、不要不急の買い物を減らす傾向は再び強くなっている。
 とはいえ日々の食は消費者にとって不可欠だ。だからこそ、日常使いする地元民の生活に根ざした食品スーパーの存在感が増す。産地直送の生鮮品やEDLP(毎日安売り)によるお得感の演出……。地域の消費者の心に刺さる施策を打ち出せる小売業こそがいま、業容を拡大できる可能性を秘めている。
 
 日経MJ(流通新聞),2016/10/31,ページ:1