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エイチ・ツー・オーリテイリング社長鈴木篤さん――関西集中、イズミヤ再生、ドラッグ・コンビニ視野(トップに聞く)

2016.01.25

 阪急阪神百貨店などを傘下に置くエイチ・ツー・オーリテイリング(H20)が脱・百貨店戦略を加速している。鈴木篤社長は「百貨店の延長で考えていない。関西の総合流通業」と位置づけ、2014年に買収したイズミヤのてこ入れに余念がない。主力の阪急うめだ本店(大阪市)の収益基盤を磨きながら、ドラッグストアやコンビニエンスストアなどへの進出も視野に入れている。(聞き手は編集委員 中村直文)
権限委譲進め
地域色を出す
 ――15年間トップにいた椙岡俊一相談役からかじ取りを任されました。
 「責任は重大だと思っています。イズミヤが14年にグループ入りして、連結売上高が1兆円に近くになりました。『関西ドミナント(集中出店)戦略』は椙岡から引き継ぎ、10年でも20年でも続けないといけません。イズミヤ買収もその一環です」
 「日常生活に入り込んだ業態を持ちたいというのが悲願でした。これまで阪食のオアシスしかありませんでしたから。イズミヤは関西で最も店舗が多いスーパー。共通ポイントを4月から始め、イズミヤでもオアシスでも百貨店でも使えるようにします。スーパーでポイントをためてもらい、たまに梅田でちょっといいモノを買ってもらいましょうと。これがH2Oの戦略です。もっともイズミヤは優秀な人材と店舗資産を持っていますが、改革も欠かせません」
 ――具体的にはどんなことでしょうか。
 「大量販売・仕入れの手法は限界があります。イトーヨーカ堂やイオンなど全国チェーンはエリアごとに仕入れを分けるようにしていますよね。イズミヤでは関西を中心に事業展開している営業エリアを5つに分けました。北摂・阪神間と東大阪・奈良は違い、大阪市内も堺・岸和田エリアとは違うからです」
 「各エリア長に権限と責任を渡し、地域ニーズに応じた商品を本社の仕入れ部門にオーダーを出す仕組みを構築中です。商品全体の8~9割は本社で発注し、1~2割はエリアまたは店ごとに独自の商品政策を展開していきます。一定の金額以内なら自らの判断で改装してもかまいません」
 ――総合スーパー(GMS)は厳しいです。
「GMSの中の食品は小商圏型に切り替えます。問題は2階以上の非食品です。2階以上は『食品プラスアルファ』という考え方です。これまでは逆でした。服とか靴とか家電、自転車、文房具がメーンで週1回の来店を基本に考えていましたが、今後は食品のついで買いを重視します」
 ――イズミヤ再建のメドは。
 「建て替えまで考えれば10年単位になるでしょう。とりあえず17年度までの3年で営業利益70億円にする目標を立てています。達成できそうであれば、本格的に建て替えを進めます。7年くらいはかかるでしょう」
 ――ドラッグストアやコンビニへの進出は。
 「日常生活での顧客接点を増やせますからね。自前で一から始めるのは難しいので、どこかと組んで(融合店などを)やるか、M&A(合併・買収)までいくか分かりません。提携するとか、少しだけ出資するとかを考えています」
増税後にらみ
大改装で先手
 ――阪急うめだ本店を建て替えてから丸3年たちました。
 「十分成果は出しています。ただ百貨店の婦人服が非常に厳しい。売り手にも問題があり、買いにくい売り場になっているのではないかと。60代、20代向けだとか年齢割りで売り場を構成したところ、ここ1~2年でお客様の買い方が一気に変わったのです」
 「例えば20代女性はこういう服を買うだろうと判断して作った売り場で50代女性が買っていくわけです。つまり服のテイスト、買う際の気持ち、服に求めるシーンで買うようになったわけです。そこで今秋までに段階的に大規模改装し、シーンやテイスト別に売り場をくくり直します」
 ――17年4月に消費増税を控えています。
 「若干影響があると思いますが、14年4月に8%に上がった時、落ち込んだのは4月の1カ月くらいで、5月からは元に戻りました。他社は戻るのに3~4カ月かかったと聞きました。今回も慌てるような感じではありません」
 「阪急うめだ本店の改装も増税後にお客様が離れていかないように手を打つのが狙いです。先ほどの売り場の再編集以外にも、昨年11月に1階のハンドバッグ売り場を広げました。20代などに対し、将来のお得意様になってもらうためのエントリーアイテムと位置付けています」
 ――阪神梅田本店(大阪市)の改装の方向性はどうですか。
 「阪神梅田をどうするかはねじり鉢巻きで一生懸命考えています。阪急うめだ本店と同じ路線にはしません。イカ焼きは残してほしいというお客様の声が多いなど食品に定評はありますから、これにどう磨きをかけるか。加えて、上層階にはもうひとつ(集客の)柱が必要だろうと考えています。阪神が持つ色というか、空気感は崩さないで、どう未来形の百貨店にするかが課題です」
 すずき・あつし
 1980年(昭55年)関学大経卒、阪急百貨店(現エイチ・ツー・オーリテイリング)入社。ショッピングセンター(SC)開発などを経験。2006年執行役員、14年3月取締役、同4月社長。ゴルフをするのが息抜き。59歳。
業績データから
スーパーに改善の余地
 エイチ・ツー・オーリテイリングの2016年3月期の連結業績は、純利益が前期比21%増の140億円で2期連続で最高益を更新する見通しだ。けん引するのは百貨店事業。阪急うめだ本店(大阪市)は海外高級ブランドや感度の高い衣料品などをそろえ、15年4~9月期の売上高が前年同期比17%と絶好調。通年では2千億円突破が確実だ。今秋までに大規模改装を実施し、顧客基盤をさらに盤石にしたい考えだ。
 課題は同店に次ぐ収益の柱を育てられるかどうかに尽きる。今後、中国で百貨店の出店、阪神梅田本店(大阪市)の建て替えを控えるが、改善余地がより大きいのは売上高規模の割に利益貢献が少ないイズミヤなどのスーパー事業だ。業界の常識にとらわれない「百貨店会社」ならではの再建に期待したい。(小泉裕之)
 
 
  日経MJ(流通新聞),2016/01/25,ページ:3