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電力小売りの全面自由化へ準備を万全に(社説)

2016.01.18

 4月1日に始まる電力小売りの全面自由化まで3カ月を切った。既存の電力会社や新規参入する事業者が相次いで料金メニューを発表し、受け付けも始まった。
 多様な事業者が料金を競い、電気と携帯電話のセット販売など、これまでにないサービスの登場に期待が高まる。競争が生み出す活力をうまく成長につなげたい。そのためには全面自由化への移行に万全を期すことが大切だ。
 まず、消費者に電力自由化を正しく理解してもらうことが欠かせない。一般家庭や小規模店舗はこれまで地域の電力会社からしか電気を買えなかった。4月以降は自由に選べるようになる。
 電力は社会を支えるインフラだ。どの企業から電気を買っても安定して使えることが大原則だ。だが、経済産業省が昨年11月に実施した調査によると、「電力会社を切り替えても停電の頻度や電気の質は変わらない」ことを知らない回答者が7割を超えた。
 4月までにどの事業者から買うかを決めなくても、現在、契約する企業から供給されることも5割の回答者が知らない。電力自由化という言葉はなんとなく知っていても、具体的な内容について理解が進んでいるとはいいがたい。
 制度変更を狙った悪質な売り込みなどの被害にあわないように、政府や自治体は一人暮らしのお年寄りなどにも自由化のしくみについて丁寧に説明してもらいたい。
 夜間に電気を多く使う人向けなど、消費者の生活様式にあわせたきめ細かい料金メニューや、携帯電話やガスなどとのセット販売の魅力は大きい。しかし、契約が複雑になり、わかりづらくなるようでは逆効果だ。
 政府は電力小売りに参入する事業者に顧客への契約条件の説明や、苦情や問い合わせへの対応を義務付けている。事業者はこの順守はもちろん、できるだけわかりやすい説明を心がけてほしい。
 自由化には公正な競争環境が不可欠だ。政府は監視役となる「電力取引監視等委員会」を設けた。誤解を招く売り込みをしていないか、市場に影響を与える情報を開示せずに取引していないか。チェックする委員会の役割は重い。
 消費者が契約先を変える場合、事業者間で顧客情報を移す作業が要る。そのための情報システムを全国規模で整える必要がある。自由化が始まっても混乱がおきないように入念に準備してほしい。
 
 
  日本経済新聞 朝刊,2016/01/18,ページ:2