ニュース

電力の収益改善遠く、原発再稼働に逆風相次ぐ、司法判断も分かれる。

2016.08.01

 電力各社の原子力発電所の再稼働による収益改善シナリオが修正を迫られている。再稼働の行方に一段と不透明感が強まっているためだ。国内で唯一稼働している九州電力川内原発(鹿児島県)は三反園訓新知事が近く一時停止を要請する見通し。原発の再稼働を巡る司法判断も揺れており、電力各社の収益改善は遠のく可能性もある。
 原発が再稼働すれば、現在依存する火力発電で使用する液化天然ガス(LNG)の調達コストが下がり、利益が改善する。九州電は川内原発の再稼働で2017年3月期に1000億円程度の利益改善を見込んでいた。
 だが、28日に就任する鹿児島県の三反園新知事が、熊本地震を踏まえて安全性を検証するため原発の一時停止を九州電に要請する方針。知事に原発停止の法的権限はないが、知事の意向を無視して稼働を続けるわけにもいかない。
 新潟県の泉田裕彦知事が東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発の再稼働に慎重な姿勢を崩さないのと似た構図で、「九州電の収益見通しは楽観できない」(国内証券)との指摘も出ている。
 加えて、熊本地震による鉄塔の損壊などで約100億円の特別損失を計上。九州電の瓜生道明社長は「2期連続の黒字達成は必達目標だ」と意気込むが、実現にはコスト削減の積み増しなど追加の対応が必要となる。
 四国電力は7月末に伊方原発3号機(愛媛県)を再稼働させる計画だったが、一部設備の不具合から再稼働時期は8月以降にずれ込む。今期の再稼働による利益貢献度は100億円程度にとどまりそうだ。
 四国電は、電気料金引き上げの効果で15年3月期に4期ぶりにようやく最終黒字に転換。16年3月期も111億円の黒字となった。今期は販売電力量が減り、売上高は40億円減る見込みだが、伊方3号機が再稼働することで3期連続の最終黒字は確保できそうだ。
 だが先行きは楽観できない。伊方原発の対岸に位置する大分県の住民らが早ければ8月にも運転差し止め訴訟を大分地裁に起こす見通し。原発を巡る司法判断も分かれている。川内原発の運転差し止めを求めた仮処分申請に対しては福岡高裁宮崎支部が差し止めを認めない決定を出した。
 これに対し、関西電力高浜原発3、4号機は差し止めを命じる判断が出て、運転を停止している。伊方3号機の差し止めが認められれば、四国電が再稼働に関連する安全対策投資1700億円の回収に黄信号がともることになる。
 今年4月の電力自由化を受け、東電HDなどは電力の顧客を東京ガスなどに奪われている。四国電の幹部は「激戦区の首都圏と関西の競争が一巡すれば、いずれ四国にも攻めてくる」と危機感を隠さない。電力各社は原発の再稼働によりコストを圧縮して価格競争力を高めたい考えだが、その行方は不透明感を増している。
 
 日本経済新聞 朝刊,2016/07/28,ページ:16