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第6部動き出した自由化(下)顔見える電源、産地こだわる――みんな電力や水戸電力、脱・大手集中の契機に(電力ビッグバン)

2016.05.30

牛小屋・地元産…VB、独自色競う
 4月から始まった電力小売り全面自由化商戦では、「電源」で特徴を打ち出す新電力ベンチャーが相次ぎ登場した。地元産の電気や、再生可能エネルギーで作られた電気など、電源にこだわる消費者に訴える戦略だ。電気を選ぶ基準は価格やサービスだけではない。作り手の顔が見えるかどうかが、新たな物差しとなるかもしれない。
 「地元の牛小屋で作った電気を買いたい」
 そんな要請に応える新電力がある。みんな電力(東京・世田谷)だ。
 同社は首都圏で小規模発電事業者から太陽光発電の電気を買い取り、消費者に売電している。現在5カ所の発電所から調達しているが、その1つが八王子市の酪農家の屋根にある発電設備だ。
「使いたい」訴求
 同社が提供する電気の半分は太陽光発電などの再生エネで作られたものだ。残りは東京電力ホールディングス(HD)のバックアップ電源を活用する。電力料金は東電HDとほぼ同水準だが、「優先的に使いたい発電所」を選べるのが特徴だ。
 電気は送電線を介して送られるため、実際には自分が選んだ発電所の電気がそのまま届く訳ではない。選択した発電所で足りない場合は、他の再生エネの電源や東電HDからのバックアップ電源で賄う仕組みだ。
 「コンセントの向こうに顔が見える電力を提供したい」。同社の大石英司社長はそう述べる。
 食材は産地にこだわって購入する人が多い。電気でも同じこだわりを持つ人がいるのでは――。そんな思いから小売り事業に参入。インターネットでの受付だけで1500件以上の契約を獲得した。クラウド型の電力管理システムを自前で作るなど固定費削減に努め、契約2000件を超えれば黒字化できるという。
 発電所は6月には30カ所以上に増える。「価格ではなく、『ここで作った電気だから買う』というファンを多く作る」(大石社長)。
 全国の電力契約の切り替え件数は、まだ全体の1%程度。市場活性化に向け、注目されるのが電力の地産地消だ。
 茨城県で太陽光発電システム会社が設立した水戸電力(水戸市)もその1つ。県内のメガソーラー(大規模太陽光発電所)で作った電気を20%使い、対象エリアを茨城県に絞って営業している。
 5月中旬。同県石岡市の施設で「電力自由化」をテーマにした市民向け勉強会が開かれた。参加者が11人のミニ集会で講師役を務めたのは、水戸電力の岡野太郎氏。自由化の制度の説明に始まり、高齢者を狙った「自由化詐欺」の実態も説明しながら、2時間にわたって熱弁をふるった。岡野氏はこうした地元の会合を丹念にまわって情報発信し、水戸電力の認知度を高めている。
 参加した野口多幸子さん(66)は「次世代電力計が無料で交換してもらえると初めて知った」などと感心した様子。集会後、11人のうち3人から「切り替えを検討したい」と連絡があった。
 隣接している福島県での東京電力福島第1原子力発電所事故の影響もあり、岡野氏は「再生エネを使っていることへの反響は大きい」とみる。
 水戸電力にはサッカーJ2の水戸ホーリーホックも出資。J2水戸の主催試合にはスタジアムに宣伝ブースを設け、サポーターに訴えている。顧客獲得目標は3万件で、今のところ契約件数は300件だが、地域に根ざした新電力として、普及と定着を目指す。
「都産都消」も
 「地産地消」型は、バイオマス発電のグリーンサークル(長野市)や、官民が出資する真庭バイオエネルギー(岡山県真庭市)など各地にあるが、都内でも動きがある。
 東京都環境公社の実証事業だ。同公社は自ら小売り電気事業者に登録しており、7月から再生エネ電源を購入し、公社施設に供給する。電力の購入先は東京都調布市の太陽光発電所と、宮城県気仙沼市のバイオマス発電所。いずれも民間企業が運営する小規模発電だ。
 発電量の変動が激しい太陽光と、変動が少ないバイオマスの組み合わせは需給管理が難しい。
 都環境公社が実証事業に乗り出す理由は、ノウハウを蓄積し、将来的に再エネ電力参入を目指すベンチャーを支援するためだ。関係者は「『都産都消』の電力事業が立ち上がることを後押ししたい」と期待をこめる。
 この都公社の実証事業に協力するのが、やはり地域新電力。みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市)だ。
 みやま市や地元銀行などが出資する同社は、みやま市内の太陽光発電を主電源とする、地産地消型の先駆けといえる存在だ。市の世帯数は1万5千件だが、3%に当たる500件と契約した。
 同社の電気料金は九州電力より2~3%安い。みやまスマートの磯部達社長は「料金で訴求するつもりはなく、地元に還元することを売りにしている」と説明する。
 契約者にはタブレットを貸与して地元ニュースを配信する取り組みも進める。高齢者家庭では電力の使用状況を監視し、電力消費が急減した場合は本人や家庭に問い合わせる「見守りサービス」も自社で手掛けている。
 「電力を媒体とした新たなエコシステムを地方で作りたい」(磯部社長)といい、電力事業が地域振興に発展する可能性も秘める。同社には全国30の自治体や企業から問い合わせが入っており、都公社との協業で“みやまモデル”の普及に弾みをつけたい考えだ。
 こうした地産地消型の登場は、大手電力による大規模集中電源から、再生エネを活用した分散電源への流れが広がる契機となるかもしれない。
 
 
 日経産業新聞,2016/05/26,ページ:3