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電力小売り自由化1カ月、中国電、独占揺るぎなく、ガスとの越境バトル焦点。

2016.05.09

 電力小売りの全面自由化の開始から1カ月が経過した。中国電力管内で新電力に切り替えた件数は4月22日時点で約1600件と、全国10電力のうち沖縄、北陸に次いで3番目に低かった。参入する企業が少ないのが要因だ。通信やガスなど異業種とのセット販売でシェアをほぼ独占する中国電力の牙城を崩す動きが出るのかが焦点だ。
変更1600件どまり
 「マンションでも電力の切り替えはできると思いますか」。4月29日、イオンモール広島府中(広島県府中町)1階の広場で経済産業省が電力自由化のイベントを主催した。参加者に問いかけた答えは「できる」。同省の電力・ガス取引監視等委員会の松尾剛彦事務局長は「誤解されやすい点です」と解説した。
 電力広域的運営推進機関のまとめでは、電力小売りで中国電力から新電力に切り替えたのは約1600件。「auでんき」のKDDIなど中国電力が供給を続けるなど統計に表れないケースもあるが、東京で46万件、関西で17万件など大都市での切り替えが進むのと対照的だ。
 中国電力管内で電力の小売りを始めたのは数社にとどまる。中海テレビ放送(鳥取県米子市)はケーブルテレビ加入者を中心に約500世帯と契約した。電力契約を機にケーブルテレビに入る世帯も10以上あった。6月は丸紅新電力(東京・千代田)がサービスを始める計画だ。
 電力自由化でも事務所や小規模店舗への小売りにとどめる企業もあり、家庭向けの選択肢が限られていることも切り替えが進まない理由の一つといえそうだ。「家庭向けは1件あたりのもうけが少なく、もともと接点がない企業がゼロから集客するにはもうからない」と新規参入を検討していた企業の幹部は漏らす。
新メニュー開始
 守る立場の中国電力は4月1日に新たな料金メニューを始め、25日時点で7万5000件が切り替えた。ためたポイントをイズミの商品券などと交換できる。清水希茂社長は「料金メニューなど各種サービスは一定の評価をいただいている」と手応えを示す。
 中国電に死角はないのか。今後、可能性があるのは電力会社やガス会社などとの越境バトルだ。すでに東京電力管内では東京ガスが関西電力と組み電力小売りを開始。足元でも米子瓦斯(鳥取県米子市)や浜田ガス(島根県浜田市)も電力小売りを始める方針。他地区からの参入の有無が焦点となる。清水社長は「首都圏などの競争激化が目立つ。いずれ中国地方でも厳しい競争が始まる」と気を引き締める。
 電力切り替えの時期として次の山場を迎えるのが2017年春のガスの自由化だ。広島ガス(広島市)は従来より安い料金メニューを始める。「いろんな提携先を考えている」(田村興造社長)。ガス会社が中国電以外の電力会社と組んで中国電と競争する動きが出てくるかが焦点だ。
 中国電は東京電力管内で始めた電力小売りで約100件と契約した。中国地方に縁がある消費者を囲い込む。「口コミを中心に顧客層を広げる」(清水社長)。2~3年をめどに首都圏で3万件の契約獲得をめざす。
 
 
 日本経済新聞 地方経済面 中国,2016/05/03,ページ:11