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東電HD「電力自由化」響く、今期経常、利益100億円超押し下げも、参入組、利益貢献に時間。

2016.04.25

 一般家庭が電力の購入先を選べる電力小売りの全面自由化が始まって3週間。最新の8日時点の集計では、電力を切り替えた世帯数は62万2700件で、その6割以上が東京電力ホールディングスが地盤とする首都圏だ。経済産業省によると、電力自由化の市場規模は首都圏で約2・8兆円。新興勢力がシェアを拡大すれば、同社の利益を押し下げる要因となる。
 大和証券の西川周作アナリストは、電力の切り替え件数が年内に100万件を超える可能性があるとみる。現状の割合が続くとすると、主戦場である首都圏の切り替え件数は60万件超となる。
 東電HDは首都圏で2000万世帯に電力を供給している。切り替え件数の中には東電HD内でのプラン変更なども含まれるが、単純計算すれば最低でも3%を失う。同社の経常利益に与えるマイナス影響は2017年3月期で100億円を超える可能性がある。
 新規参入組の筆頭格は東京ガスだ。電力契約件数は11日時点で約26万件で、今期中に40万件の獲得を目指す。目標値が低いとの指摘もあるが、広瀬道明社長は「対面による丁寧な接客が必要で、時間がかかる」と話す。
 東ガスは2月、昭和シェルとの共同出資で液化天然ガス(LNG)火力発電所を新たに稼働させた。東ガスのLNG基地に近い横浜市で、既存発電所と合わせ、一般家庭160万軒に供給できる体制を整えた。東燃ゼネラル石油なども発電能力の増強に動いている。
 設備投資に加え、各家庭を訪問する営業体制の強化、広告宣伝などでコストがかさみ、各社とも初年度の利益貢献は限られそうだ。東ガスでも、今期の利益貢献は営業利益段階で最大10億円程度にとどまる見通しだ。
 電鉄系も参入している。首都圏では東京急行電鉄が子会社の東急パワーサプライ(東京・世田谷)を通じて渋谷や横浜など東急線主要駅に特設ブースを設けて販売攻勢をかけている。3月末時点での契約者数は3万件を超えた。
 今期の契約目標は10万件。今後10年で東急沿線世帯の2割強に当たる55万件の契約獲得を目指す。電力事業は今期、営業損益が赤字だが、19年3月期には数億円の黒字に転換すると見込む。
 通信や小売企業も参入を決めている。携帯電話ではKDDIは沖縄を除く全国、ソフトバンクグループは首都圏と関西、中部で展開する。両社とも電力会社から電気を仕入れて販売するため、自前で設備を持つ企業と比べ価格競争力は低く、収益への貢献も限られる。
 それでも参入を決めたのは、電力とのセットで携帯電話の顧客を囲い込めるとの期待からだ。大和証券の西川氏は「ほかのサービスを組み合わせてどれほどのメリットを訴えられるかがカギになる」と指摘する。
 
 
 日本経済新聞 朝刊,2016/04/22,ページ:17