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景気減速、消費の現場で何が?――マーケティングライター牛窪恵氏、若者はコスパと共感で動く(ニュース複眼)

2016.03.14

 消費者調査の一環で、20歳代の若者の話をよく聞く。今年はリオ五輪や主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)など大型イベントで盛り上がり、消費は上向くと予想していた。
 ところが年明けから株価が乱高下するなど、消費者の間で日本経済の先行きに対する不安が広がった。特に20歳代の大半を占める「ゆとり世代」の若者は将来の不安に敏感だ。多くの若者が日銀のマイナス金利政策が自分の生活にプラスかどうか分からず「将来が怖くて消費できない」と感じている。
 20歳代から30歳代前半の若者は景気低迷の日本で生活し、経済成長を実感したことがない。非正規雇用で働く若者も多く、国や企業は守ってくれないとの意識が強い。頑張って働けば収入が増えるという将来への期待も薄い。
 そのため今どきの若者は費用対効果といったコストパフォーマンス(コスパ)を重視し、「消費で失敗したくない」と考える。口コミサイトの評価を調べて飲食店を選んだり、ネット通販で衣服を購入したりする。クーポン券やポイントカードを使いこなして無駄遣いせず、堅実に消費する世代だ。
 「消費で失敗したくない」との考え方は、友人や仲間の間で「ひとりぼっち」になりたくないという気持ちと通じる。同じ価値観を共有できる仲間や友人のいる交流サイト(SNS)に居場所を求め、友人との「つながり」そのものが消費意欲を喚起するのだ。
 例えば、この数年で1千億円規模の消費市場に育ったハロウィーン。みんなで仮装して行進し、友人とのつながりを楽しむ若者が目立つ。大学4年生は友人との思い出づくりのために年に2~3回も卒業旅行にでかける。友人との絆を深めるため、最近は贈答用に本を購入する若者も増えている。
 友人とのつながりを求める消費行動の一つに、交流サイトで共感されるための「ネタ消費」もある。アイスキャンディー「ガリガリ君」でコーンポタージュ味が予想以上に売れて販売休止になったことがある。この時、変わった風味のアイスを買う自分をSNSで仲間にアピールする若者が目立った。
 こうした若者の消費行動には不安も感じる。子供のころ買い物を楽しむ経験が少ないと、大人になってもあまり消費しない。若者の息子や娘世代が大人になればますます消費しなくなる。将来の経済的なデメリットも大きい。
 今どきの若者が消費を楽しまないのは大人にも責任がある。かつては会社でも上司が若い部下にお酒の飲み方を教えてきたが、最近は大人も仕事が忙しく余裕がない。若者があこがれるような消費の姿を見せるのも、大人世代の役目かもしれない。
 (聞き手は遠藤邦生)
アンカー
慎重消費つかむ
新たな発想必要
 3氏の発言の底流にあるのは「不安心理」による消費の足踏みだ。特に経済活性化のために踏み切った日銀のマイナス金利政策への理解が深まっておらず、逆に消費行動を萎縮させている。お金を使う気分を醸成するならば、政府・日銀はマイナス金利政策についてより丁寧な説明が必要だ。
 財布のひもを握る賢い主婦に、消費の失敗を恐れる若者。そしてネットを使った中古品売買。最近の消費動向を聞く限り、少々の賃上げでは動かない消費者像が浮かぶ。むしろ今の慎重な消費姿勢をニューノーマル(新常態)と考えるべきではないか。消費者の琴線に触れる商品開発や売り方へ発想の転換が欠かせない。(編集委員 田中陽)
 うしくぼ・めぐみ 01年にマーケティング会社のインフィニティを設立。「草食系男子」や「おひとりさま消費」など若者や女性の消費に詳しい。48歳。
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 日本経済新聞 朝刊,2016/03/10,ページ:9