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ID利用の決済サービス、リクルート参入、会員争奪、顧客囲い込み、楽天追う。

2014.06.03

 インターネットで会員IDを利用した決済サービスが広がっている。4月にリクルートホールディングスが参入。先行する楽天なども提携先を増やし、利用者の取り込みを図る。ID決済は支払いの際にクレジットカード情報などの入力が不要になる。顧客を自社に囲い込みやすくなり、販売機会も失いにくい。会員を多く抱える通販サイトなどで争奪戦が激しくなりそうだ。
 携帯電話向け音楽配信のエムティーアイ(MTI)が運営する音楽配信サイト「music・jp」。サイトで音楽を購入する際、リクルートの会員IDとパスワードを入力すると、簡単に決済が終了する。クレジットカード番号などの入力は不要だ。
 4月下旬にリクルートが始めた「リクルートかんたん支払い」は、同社のネットサービスで使う会員IDが利用できる。約2万3000の宿泊施設が加盟する「じゃらん」や約3万7000店が登録する美容院の検索予約サイト「ホットペッパービューティー」など自社サービスのほか、エムティーアイなど外部にも開放する。
 消費者がリクルートIDでサービスを購入すると「リクルートポイント」を付与。ためたポイントをほかのサービスの購入に充てることもできる。6月にはサイバーエージェントのネットサービス「アメーバ」でも使えるようにするなど、今後も提携先を増やす。
 会員IDを使った決済を使えば、個人名やカード番号などの登録を不安と感じる消費者でも、ネット通販やネットサービスを利用するきっかけになる。
 楽天は2008年から同サービスを開始。ネット通販「楽天市場」や旅行予約の「楽天トラベル」などグループのサービスのほか、雑貨店「無印良品」や宅配ピザのドミノ・ピザジャパン(東京・千代田)など1200サイトで使える。
 さらに昨年10月、会員が自分の登録した情報を他のネット通販などでも簡単に入力できる仕組みを取り入れた。「購入以前の個人情報登録で離脱してしまう顧客を減らす」(楽天)狙いだ。
 強みはやはり、「楽天スーパーポイント」だ。国内に9千万人の会員を抱え、ネット通販などだけで年間1千億円程度のポイントが流通しているとみられる。今秋からは全国1万3400店の実店舗でもポイントが使えるようになる。「使い勝手が良く、魅力的なポイントを活用していく」(楽天の三木谷浩史社長)。使える場を広げることで、ID決済の利用者獲得につなげる。同サービスの14年1~3月の取扱高は前年同期比32・3%増となった。
 ヤフーはオークションサイト「ヤフオク!」や衣料品ネット通販の「ゾゾタウン」などで利用できる「ヤフー!ウォレット」を提供する。ゾゾタウンではヤフーのID利用者の1割がヤフー!ウォレットで支払っている。同サービスの会員数は増加傾向で、現在は2600万人にのぼる。
 昨年10月には米アマゾン・ドット・コムが新しい決済サービスを発表した。アマゾンのIDを外部のネット通販会社などに提供する仕組みだ。現時点では米国内だけのサービスだが、今後日本に上陸する可能性もある。
 決済サービスの拡大は決済手数料など新たな収益につながるほか、提携先のサービスや商品の購入動向も把握できる。顧客囲い込みの動きはさらに加速しそうだ。
 
 
  日経産業新聞,2014/05/14,7面