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ゲーム発想で講義ワクワク、発表にポイント制、「レゴ」でチーム作業、楽しみながら理解。

2014.05.08

 大学が、楽しむことで集中力を高めるゲームの発想を講義や学内生活に取り入れ始めた。コミュニケーションに応用する「ゲーミフィケーション」と呼ばれる手法で、学生のリポート提出にポイント制を導入して成績に反映させたり、知育玩具を使って共同作業の効率性を体験させたりしている。学ぶ意欲を高めて学力アップを図るのが狙いだが、普及には教員の協力などが欠かせない。
 教員「日本のゲームが外国と比べて優れていることは何か。グループで考え、1チームだけ発表してもらいます」
 学生チーム「日本のゲームは設定が細かく練られています」「海外のゲームはリアルを追求するが、日本は(現実離れした)独特の発想に強みがあります」
 東京工科大学八王子キャンパス(東京都八王子市)。メディア学部の岸本好弘准教授の講義の一コマだ。自主的な発表にポイントを与え、成績に反映する取り組みが今年度から始まった。学生は1組4~5人程度のグループで議論、教室の前に出て発表すればポイントが与えられ、専用カードにスタンプがもらえる。
 ポイント制自体は2年前に導入。毎週の講義終了時にその日の課題のリポートを提出して1ポイント。それと別に、深く考察したリポートを自主的に出すと1ポイントがもらえる。獲得ポイント数は半期中ごろに中間発表する。
 受講する加藤大輔さん(20)は「授業への関心が高まり、参加しやすい」と歓迎。仁井田真奈未さん(19)も「やった分だけ返ってくるので、やる気が湧く」と話す。ただ講義での発表については、「教室の前に出て大勢の前で発表するので、自信がないと言えない」と仁井田さん。
 岸本氏はゲーミフィケーションに必要な要素について、学生が能動的に参加することやグループワークで自己を表現すること、成長を見える化することなどを挙げる。これらを駆使して、楽しく学んで社会で活躍できる人材育成につなげる。岸本氏は「教員側が授業をおもしろくする努力が必要だ」と強調する。
 一方、組み立てブロックの知育玩具「レゴブロック」を使った競技を取り入れるのは、実践女子大学。様々なテーマについて学生が主体的に取り組む1~2年生向けの基礎ゼミの一部で導入した。学生はチームに分かれ、「JISSEN」の文字からなる大学のロゴをレゴブロックで立体的に表現した「見本」を複製する速さを競う。
 チームごとに作戦を練って何度か繰り返すうちに、完成までの時間が短くなり、作業を効率よく進める工夫や分業の大切さに気付く仕組みだ。
 実践女子大は、富士ゼロックスが社員向け研修などのために開発したプログラムを取り入れた。導入を主導した人間社会学部の竹内光悦准教授は「学生は楽しみながらチームワークや問題解決能力を高められる」と、成果に手応えを感じる。
 授業の内外にかかわらず取り入れているのは敬愛大学の経済学部。学生の親切な行動や努力に対して特別カードを渡してポイントを与える「敬天愛人マイスター」制度だ。学生同士でポイントを与える「ありがとう」カードは1枚につき1ポイント。教員が渡す「ないす」カードは2ポイントもらえる。
 この制度では50ポイント以上で「敬天愛人マイスター」、80ポイント以上で「敬天愛人グランドマイスター」の称号が与えられ、名前も公表する。学生には自分の努力が見える化されることで、一層の努力につながり学内交流が活発になる。
 提案者の1人、森島隆晴教授は「もともとは友だちをつくれず孤立する学生が目立っていたことがマイスター制度のきっかけ」と話す。同学部は成績優秀者にマイスターの称号を与える「科目マイスター」制度も導入しており、学内生活をさらに活発にする考えだ。
 ゲーミフィケーションは大学生の学力低下が指摘されていることを受け、注目され始めた。出席を促すだけでなく、学習に興味を持ってもらうために有効だとされる。加えてコミュニケーションの活発化にも役立つ。ただ大学での普及は容易ではない。森島教授は「大学とゲームを結びつけるのに抵抗を持つ教員も少なくない。教員の理解をどう深めていくかが課題だ」と指摘している。
 大学ではゲーミフィケーションを駆使できる教育人材の育成も始まっている。千葉大学教育学部は昨年度、交流ゲーム大手のグリーと共同で、教育に活用できるゲームの企画などに取り組む授業を始めた。
 教育学部生のほか、聴講の大学院生、研究生ら20人が対象。授業の進め方もゲーミフィケーションを取り入れた。学生とグリーの技術者が5つの混合グループをつくり、「敬語」「防災」など5つのゲームを企画し競い合う。「文字や絵を使う能力が生かされ、普段発言しない学生が目立っていた。コミュニケーション上の意義は大きい」(藤川大祐教授)
 ゲーミフィケーションは小中学校などでも利用され始めているが、使う人材が十分に育っていない。ゲーム教材の企画や実際の体験を通じ、将来の教員としての能力を身に付けてもらう。
 使い方も重要だ。「例えばポイント制だけで済ませると、ポイントを得るための努力しかしなくなる恐れがある。受験のように学習への興味を失わせかねない」と藤川氏は強調する。
 任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売されたのは1983年。当時10歳の子どもは現在40歳前後。10年後にゲーム世代は6割を超すと言われるが、ゲーミフィケーションの普及には教育人材の確保と、学習への興味を持続させるための使い方の工夫が欠かせない。
 
 
  日本経済新聞 朝刊,2014/04/28,21面