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クリーニング安さより質、喜久屋、年会費払うと追加サービス、はっすい加工など、生き残りへ新機軸。

2013.12.12

 中堅クリーニングチェーンの喜久屋(東京・足立、中畠信一社長)が始めた新サービスが注目を集めている。1万500円の年会費で1年間、はっすい加工やしみ抜きなどの追加サービスを無料で提供する。料金引き下げ競争が激しさを増す中で、「質」重視のサービスを追加。固定客づくりに役立つ年間パスで利用頻度を増やし、安定した収益基盤を築く考えだ。
 喜久屋の店頭で11月、新サービスを告知する「プレミアム会員」の文字が躍った。
 新サービスは1万500円の年会費でプレミアム会員になれば、「割り増し」サービスをする。ドライクリーニングなら、はっすい加工や静電気防止効果がある「プレミアム加工」をしたうえで、保存に便利な不織布のカバーを付ける。ワイシャツはハンガーにつるすかコンパクトにたたむか、どちらでも対応。のりも「固め」や「のりなし」の指定を受け付ける。
 市場縮小に苦しむクリーニング業界。団塊世代の大量退職や服装のカジュアル化に加え、家庭用洗剤の進化も逆風となり、業界推計では消費者向けのクリーニング市場は2012年で約4千億円とピークの1992年から半減したといわれる。
 生き残りをかけ、相次いで登場しているのが「ワイシャツ1枚99円」など激安をうたう店舗。価格を武器にした顧客確保策の広がりは、喜久屋にも影響を及ぼす。
 一部店舗を除き、同社の料金体系は「スタンダード」「プレミアム」「スーパープレミアム」の3段階。ワイシャツならスタンダード270円、プレミアム320円、スーパープレミアム540円と上がっていく。価格が上がるごとに当然仕上がりは良くなるが、管理部の小栗成登氏は「ほとんどのお客様はスタンダードを選ぶ」と話す。
 白洋舎などの大手競合に比べれば決して高くはないが、顧客はまず価格を優先しがち。市場縮小に伴い売上高は減少傾向で、不振店の閉鎖などでテコ入れをしている。
 低価格化の中でいかに顧客を捕まえるか。喜久屋が打ち出したのは、年会費を徴収し、プレミアムで手掛けている付加価値を無料で実施する新機軸だ。固定客づくりに加え、他社にはない上質なサービスをできる限り使ってもらうための動機づけにもなる。
 首都圏でフランチャイズチェーン(FC)を含む約130店を抱える喜久屋の売上高は11億3500万円(13年4月期)。800店を持ち444億円の売上高を誇る白洋舎など首位グループとは差がある。ただ、プレミアム会員は初回限定で3千人を受け付ける。仮に3千人が申し込んだら、単純計算すると2・8%の増収効果だ。店舗での告知のほか、約2万人いるモバイル会員へもメールで周知を進める。
 新サービスは開始からわずか1カ月あまりで東京都千代田区など都心店舗を中心に100人以上が登録。好調な出足を受け、今月には、年会費5万2500円の「スーパープレミアムカード」も始める計画だ。
 個人消費が景気をけん引しているとはいえ、日常的に利用するサービス価格への消費者の視線は厳しい。上質なサービスのためなら1万500円支払っても惜しくはない、という会員の確保がどこまでできるのか。喜久屋の成長のカギを握っている。

    日経産業新聞,2013/12/10,15面