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シニアの介護支援ボランティア――ポイント制が後押し(生活)

2013.11.25

 やりがい実感、介護予防にも一役
 高齢者が介護施設などでボランティア活動をすると、換金可能なポイントがたまる――。そんな制度が全国でじわじわと広がってきた。ボランティア活動を後押しし、本人の生きがいづくり、介護予防につなげようという狙いだ。高齢化が進むなか、シニアの力をどう引き出すかは大きなテーマとなっているだけに、今後さらに関心が高まりそうだ。温かみのあるハーモニカの音色が会場いっぱいに広がった。それに合わせて、デイサービスの利用者たちが「もみじ」「故郷の空」などの曲を楽しそうに歌っていく。東京都新宿区の高齢者福祉センター「聖母ホーム」での1コマだ。和気あいあいとした雰囲気のなか、予定の1時間はあっという間だ。

 ためて換金可能
 演奏を披露したのは「新宿うたごえハーモニー」のボランティア8人。この日は最若手が71歳、最年長は90歳というが、月5回の演奏を元気に続けている。区の「介護支援ボランティア・ポイント事業」にも登録しており、活動のたびにボランティア手帳を持参する。手帳には何十ものスタンプがずらり。会長の進藤正仁さん(78)は「手帳がいっぱいになるのが楽しみ。以前から活動してきたが、ポイントも励みになる」と話す。新宿区の場合、区内の介護施設などでボランティア活動をすると、時間に応じて1~2ポイントが得られる。1ポイントは100円に換算され、年間5000円を上限に、換金もしくは寄付をすることができる。
 介護支援ボランティア活動でポイントがたまる制度は、各地に広がっている。2007年に東京都稲城市が始めたのが先駆けで、厚生労働省によると12年には全国で87市町村にまで増えた。13年には福岡市や北九州市、千葉市、札幌市などでも始まった。制度の狙いは大きく2つある。1つはボランティア活動による地域貢献を後押しすること。もう1つは高齢者本人の介護予防・生きがいづくりだ。新宿区は64歳以下も対象としているが、ほとんどの場合は対象を高齢者に限定し制度に必要な財源は介護保険からまかなわれている。活動内容は幅広い。高齢者施設内での配食・お茶出しの手伝いや、高齢者の話し相手、行事の手伝いなどが多いが、自治体によって様々な工夫を凝らしている。6月から商品券と交換できる制度を始めた埼玉県春日部市では、自治体で開発した介護予防体操「そらまめ体操」の指導にあたることも対象にした。8000人を超える登録者がいる横浜市では4月から、病院でのボランティア活動や子育て支援などにまで対象を広げた。ボランティア活動というと構えてしまう向きもあるが、大事なのは自分にできることを無理なく続けることだ。そのなかで、地域のつながりも深まっていく。
 稲城市の松本圭司さん(80)は、社会福祉法人正吉福祉会の「押立の家」の活動に、時にボランティア、時に利用者として参加する。10月下旬に開かれた芋煮会ではボランティアとして午前中から準備をし、地域の高齢者同士でにぎやかに昼食を楽しんだ。押立の家は市から介護予防の拠点としての委託を受けており、住民のアイデアによる活動も多く行われている。「ここに来ることが健康維持の励みになっている。自分が少しでもお役に立てればと思い、活動している」という。

 目に見える評価
 稲城市では12年度末時点での登録者が約500人で、65歳以上人口の3%以上を占める。活動により高齢者の介護保険料が1カ月あたり約12円抑制できたと計算する。この制度は「高齢者の介護予防と社会参加を促す土台」という。ここからさらに研修を受けるなどして地域での活動の幅を広げる人が出てくるのではないかと期待する。シニアの社会参加に詳しいダイヤ高齢社会研究財団の沢岡詩野主任研究員(老年社会学)は「ボランティア活動を始めようと思っても、特に地域とのつながりが薄い男性にはハードルが高くなりがちだった。ポイントという目に見える評価軸があることは、参加を後押しする1つのインセンティブになるだろう」と指摘する。そのうえで「知識として介護保険のことを知っていても、自分の住む地域にどんな施設やサービスがあるのかを知っている人は少ない。活動を通じて介護や老いを知ることは、自らの今後を考えるきっかけになり、介護が必要になったときにスムーズに支援を求めることにもつながるのではないか」と話していた。

  日本経済新聞 夕刊,2013/11/06,9面